2019年に翻訳業界を揺らす5つの動き

多くのグローバル企業が、翻訳やローカリゼーションを事業拡大計画の一環と捉えるようになっています。これにともない、翻訳産業への依頼も引き続き増加すると見込まれています。翻訳・ローカリゼーション、言語サービスに関する非営利団体GALA(Globalization & Localization Association)の市場分析 には、2021年まで成長が続き、その規模は560億ドルに達すると記されています。2019年、既に兆候は現れていますが、AI(人工知能)を活用し業務の効率化を図るなど、翻訳業界にとって気になる動きも出てきています。今回は、翻訳業界を揺さぶる5つの動向を取り上げてみました。

さらに発展する人工知能(AI)

世界中のAIに関連するプロジェクトの規模は、2018年の1.2兆ドルからさらに増加し、2019年には1.9兆ドルになると言われています 。翻訳へのAIの利用が今後も増えるのは確実です。翻訳におけるAIの強みは、なんといっても言語表現の微妙な違いを捉えるのに要する時間の短さであり、他の機械翻訳ではなかなか到達できないレベルです。AI翻訳の処理能力の向上が、さまざまなバーチャルアシスタントを多言語で提供できる新しいツールを生み出すことにつながりました。Google、マイクロソフト、アマゾン、アップル、IBMなどの企業が積極的にAIの開発を進めています。

急成長が見込まれる動画ローカリゼーション

2019年、翻訳業界で最も注目度が高いのは動画ローカリゼーションでしょう。シンクタンクのEntrepreneur Network は、オンラインコンテンツに動画を入れ込む割合は、2019年に80%まで増えるだろうと推測しています。となれば、動画のローカライズがビジネスの成功を左右する要素となり、動画のローカライズも不可欠となってきます。例えば、新製品や更新情報などの重要なメッセージを伝える動画、新規の顧客などに会社の情報を伝える手段としての動画、あるいは支社/支店、他部署などの社員向けトレーニング用ビデオなどなど、動画の作成目的や用途は多岐にわたります。企業が伝えたい重要なメッセージを、正確かつ的確な表現で伝えるためには、専門技能を有する翻訳会社に動画のローカライズを依頼するのが得策でしょう。翻訳会社にとっては大きなチャンスです。

機械翻訳+人間によるポストエディットの増加

ニューラルネットワークやディープラーニングの開発が進んではいますが、それでも機械翻訳は完璧とは言いがたいものです。ニューラル機械翻訳(NMT)は、人の脳神経細胞に似た仕組みで会話の内容や言葉のニュアンスを学習しながら翻訳の精度を高めていくことができるため、複雑な言語の翻訳などに力を発揮します。それ以外にもNMTを使うメリットは複数あるのですが、反対にNMT特有の間違いを犯すなどのデメリットもあります。そこで、NMTの翻訳結果に人が編集・確認作業「ポストエディット」を行うことで、より正確できちんとした文章にすることができるのです。2019年には、機械翻訳と人間のポストエディットを組み合わせた作業の需要が一層高まると予想されています。2018年後半にシンガポールの翻訳協会(NTC)が行なった調査 でも、約半数(47%)の翻訳者が過去12ヶ月にポストエディット作業の依頼を受けたとしており、確実に需要が増えていることが見て取れます。

グローバル化の波

2019年、デジタル技術に後押しされ、さらに多くの企業がグローバル市場に乗り出すと予測されます。大企業だけでなく、中小企業がグローバル市場に参戦する可能性も増えているのです。地場産業を世界に拡張することで、地域経済の発展につなげたいとの考えから、地域の事業が複数の国に向けて幅広く製品やサービスを展開するのを、地域政策で積極的に支援することもあります。このような場合も、相手国に向けた製品またはサービスのローカライズは不可欠です。また、新興国市場 向けに、さまざまな業界や企業が事業展開を図ることも予想されます。

費用対効果の高い翻訳サービスを

グローバル市場に踏み出す企業が、事業規模に関らず、投資した資本に対して高い利益を得ようとするのは当然です。ROI(return on investment、投資利益率)は翻訳サービス/ローカライズを依頼するにあたっても重要な指標となるため、翻訳会社はどんな顧客に対しても、より早く、費用対効果の高い翻訳物を納品することが求められます。最近では、便利なツールの利用や作業プロセスの見直しや自動化により作業効率を向上させることができるようになっています。例えば、コンピュータ支援翻訳(CAT)ツールを使って翻訳作業のスピードと生産性を上げる、クラウドを活用して翻訳プロジェクトの進行管理を行う、さらに、作業フローの自動化やオンデマンド翻訳(依頼に応じた翻訳対応)によりその企業/ブランド固有のコンテンツに対応し、依頼元の関連部署が最終処理を行うためのカスタマイズなどをやりやすくするための処置を行うことで、費用対効果を上げることができるようにもなっているのです。また、文書の作成または製品の開発過程で、他国の市場向けにローカライズしやすくするために準備しておく国際化(Internationalization)も効率を上げるひとつの手段です。例えば、最新のアプリケーションをローカライズしたい企業は、テキストコーディングや多様な言語展開に適合できるようにアプリケーションを設計しておくことで、ローカライズ作業に要する費用と時間を削減することができます。

多くの企業がグローバル市場を目指し、製品やサービスのローカライズを進めています。翻訳サービス業界は、2019年も市場拡大による恩恵を得られると予想されていますが、ここで取り上げた5つの動向については引き続き注意しておくことが必要です。

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