【コラム】世界的ベストセラーになった名翻訳8冊
幸いにして日本にいると、世界のベストセラーを日本語で読むことができます。英語で出版された書籍のうち約3%しか外国語に翻訳されていないと嘆く声があることを鑑みれば、比較的多くの英語の書籍が、日本語に訳されていると言えるかもしれません。
世界的なヒット作品となるような本は、必ず英語版が出版されます。翻訳の巧みさも、書籍のヒットの要因の一つと言えるでしょう。ここでは、英語に翻訳されて世界的なベストセラーとなった書籍8冊を紹介します。
『星の王子さま』 サン=テグジュペリ著
フランス人の飛行士・小説家であるアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの小説。約300の言語と方言に翻訳され、世界中で毎年約200万冊が販売されています。2014年までの総販売数で既に1億4千万冊を超えるロングベストセラーとなっています。ラジオ、舞台、映画、オペラなど、世界の至る所で上演もされてきました。
『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』 スティーグ・ラーソン著
スウェーデンの作家スティーグ・ラーソンによる推理小説。『ドラゴン・タトゥーの女』『火と戯れる女』『眠れる女と狂卓の騎士』から成る三部作です。『ドラゴン・タトゥーの女』は、著者のラーソン氏が50歳で死去した翌年の2005年に出版され、外国語に翻訳されるや否や、たちまち国際的なベストセラーとなりました。ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーリストに4位で登場し、続いて第2部『火と戯れる女』、第3部『眠れる女と狂卓の騎士』が出版され、「ミレニアム」シリーズとして知られています。現在までに世界で8000万部以上のベストセラーとなっており、3部すべてが映画化され、大ヒットとなっています。
『アルケミスト-夢を旅した少年』 パウロ・コエーリョ著
この古典文学は、ブラジル人の作家パウロ・コエーリョによりポルトガル語で書かれ、1988年に出版されました。2016年までに約70ヶ国語に翻訳され、全世界で6500万部以上売り上げています。著者が存命中に翻訳された言語の数が世界一、としてギネスの記録にもなっています。2015年に映画化の計画が公表されましたが、今のところ実現には至っていません。
『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコ著
ウンベルト・エーコが母国語であるイタリア語で執筆し、1980年に出版した歴史推理小説。エーコが死去した2016年には約40カ国語に訳され、数千万部を売り上げました。1986年にフランス、イタリア、西ドイツの合作で映画化され、全世界で7700万ドルの興行成績を上げています。
『風の影』 カルロス・ルイス サフォン著
2001年にスペインで発表された小説。スペイン内戦時代のバルセロナが舞台のこの小説は、英語に翻訳される前、ヨーロッパで、スペイン語で書かれた書籍としてベストセラーとなっていました。Lucia Gravesによって英訳されるとイギリスで大人気となり、世界中で1500万部を売り上げたと言われています。2016年11月に『風の影』四部作の最後の一冊(原著タイトル”El Labelinto de los Espíritus”)が発表され、さらには2018年9月に英語版(英タイトル”The Labyrinth of Spirits”)も出版されるということで、期待が高まっています。
『1Q84』 村上 春樹著
言わずと知れた村上春樹の長編小説。このディストピア小説のオリジナルである日本語版(Book1から3)は2009年から2010年にかけて出版されました。出版されるや初版は初日で完売し、最初の月だけで100万部以上も売り上げました。他の言語版の売れ行きも驚異的で、フランス語版は7万部が1週間で売り切れています。フランス語や英語以外にも中国語、韓国語、ロシア語、ヘブライ語などを含む42カ国語に翻訳され、世界中のベストセラーリストに掲載されています。
ここまで紹介した本はいずれも、日本語で楽しむことができます。書籍が国際市場でヒットする場合、まずオリジナル言語で成功しているのが一般的です。しかし、中には以下の2例のように、自国語よりも他の言語に翻訳されてから人気が出た書籍もあります。
『Mind of Winter』 Laura Kasischke著
Laura Kasischkeは、アメリカでは詩人として知られており、2014された小説『Mind of Winter』は、実はあまり評価されませんでした。しかしフランスでは、この小説がセンセーションを巻き起こしました。フランス語版の『L’Esprit d’hiver』は、雑誌ELLEが選ぶ文学賞の大賞に輝き、フランスを訪れたKasischke女史は、自身が有名人であることに驚いたそうです。
『The Inspector Brunetti Series』 Donna Leon著
Inspector Brunetti(ブルネッティ警視)の活躍を書いたシリーズ作品。出版社は、このシリーズの4冊目を刊行した後、以後の出版を打ち切ることにしました。ところが、スイスの出版社がこれを引き継ぎ、ドイツ語で出版したところ大人気となりました。2000年には、英語とドイツ語で出版されていたシリーズ9”Friends in High Places”が、英国推理作家協会が主宰するDagger Awardsにノミネートされ、シルバー・ダガー賞を受賞しています。
オリジナル言語では振るわなかった書籍が、別の言語に訳されたことでベストセラーになり、それがオリジナル言語の人気を呼び起こすケースもあるようです。他言語を理解できる方は、母語に訳されていない名著も読めるという利点を活かして、その言語のベストセラーを探してみたり、原著と翻訳書を読み比べてみたりするのも一興です。