ローカライズ戦略で成功した3大テック・ブランド
世界に名だたるテック・ブランドといえば、アマゾンやアップル、グーグルを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここでは効果的なローカライズ戦略で世界中の利用者の心を掴むことに成功した3つのテック・ブランドを紹介します。
今や、世界中の人が、言語の壁を越えてさまざまな情報を受け取れるようになっています。地域ごとに適合させた製品やコンテンツの作成、つまり「ローカライズ」は、1980年代にアメリカの巨大IT企業がアメリカ以外の国々にソフトウェアを販売しようとしたことから始まりました。今では、世界市場を相手にビジネス展開する企業は、コンテンツの言葉を相手国の言葉に翻訳するだけでなく、その地域ごとの嗜好を踏まえた内容に書き換えています。そのような戦略をとることで、世界各地でお目にかかれるコカ・コーラや、マイクロソフト、ナイキといった企業は成功を収めてきたのです。
そして、これら大企業以外にも、ローカライズで成功し、グローバル市場でその存在感を増している企業はたくさんあります。
Netflix(ネットフリックス)
NetflixはアメリカのオンラインDVDレンタル、映像ストリーミング配信事業を行っている会社です。アメリカの会社ですが、世界中のコンテンツを190ヶ国のユーザーに提供しています。Netflixのビジネスにおいてコンテンツの出所や、視聴者の国籍や言語はまったく障壁となっていません。例えば、ドイツ製作のNetflixオリジナルドラマ「ダーク」は、ドイツの田舎町で起こった失踪事件にまつわるミステリーですが、視聴者の90%以上はドイツ以外の国の人でした。シーズン1が終わった時点で、英語以外の言語で配信されたコンテンツで最も視聴率の高かったドラマとなっており、Netflixの国をまたいだ浸透ぶりが見えます。
Netflixは各国の視聴者が選択する言語の字幕を付けた動画を配信することで、世界市場に受け入れられてきました。しかし、Netflixがローカライズしたのは動画の言語だけではありません。配信先のアプリや動画視聴に必要なUI(ユーザーインターフェース)まで多言語(現在のサポート言語数は23)に対応させています。Netflixは擬似ローカライズ(Pseudo Localization)と呼ばれる技術を使い、英語で書かれたUIのリアルタイム翻訳を可能にしました。2007年にアメリカで映像ストリーミングを始めたときのユーザー数は748万人でしたが、アメリカ以外の国への配信を始めるや否やユーザー数は急増し、2019年3月末のユーザー数は1億5847万人に達しています。このうち6197万はアメリカ国内のユーザーとされていますが、それ以外、半数以上はアメリカ国外のユーザーが占めています。
今やグローバルブランドとなったNetflixは、コンテンツの翻訳(字幕翻訳と吹き替え)の質に大変な注意を払うとともに、多言語で表示するパートナーヘルプセンターを設けるなど、良質なコンテンツとサービスの提供に努めています。Netflixは、映画あるいはショー(テレビ番組・ドラマ)の構成と仕様に関して深く配慮することで、コンテンツの本質を維持しつつ、世界でビジネスを成功させているのです。
Slack(スラック)
Slackは、チーム内のコミュニケーションと作業を集約できるチャットアプリです。あらゆる規模の企業や組織が利用可能であり、他のツールやアプリなどと連携させることで作業効率を上げることができます。2012年に登場してから5年で日間アクティブユーザー数(DAU)は世界中で1000万人を突破しました。Slackの有料プラン利用企業数は、85,000社を超えています。対応言語が、英語、スペイン語、フランス語、ドイツ語、日本語と増えるに従って利用される地域も拡大しており、今ではSlackを日常的に使っているユーザーの半数以上がアメリカ国外の150ヶ国を超える国々の人たちです。
さまざまな国のユーザーへの対応として、例えば、Slackにログインした際の画面でも言語によって表現を変えるなど、言語だけではなく利用者の国ごとに表示するメッセージをアレンジするなどしてユーザーの満足度を高めています。
PUBG
PUBG(PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS)は、アイルランド人の写真家であり熱狂的なゲーマーでもあるBrendan Greeneが開発したバトルロイヤルゲーム。最大100人のプレーヤーが最後の一人になるまで戦い抜くゲームで、韓国のPUBG Corporationが2017年3月にリリースしてから、わずか3ヵ月で4億人以上(2017年6月)のプレーヤーを虜にしました。ユーザーの24%はアメリカ、続く19%が中国。韓国は5.5%を占めていましたが、他にもドイツ、ロシア、日本、イギリス、さらにそのほかの多くの国にも広がり、世界中で爆発的な人気を獲得しました。このゲームは英語の他、11言語に対応しています。各言語でプレーヤーにゲームのやり方を説明するなどのサポートはもちろん、各国でどの程度の暴力が受け入れられるかといった社会性にも配慮しました。中国のように、政府のゲーム倫理委員会がゲームの内容を審査し、内容の修正や配信停止の指示を出すこともあるからです。そのような場合には、対象国のプレーヤー向けに暴力を控えめにしたりしますが、中国では、中国社会主義者の見解を受け入れるなどの対応を行い、2つのバージョンがリリースされました。その結果、アメリカに次ぐほど多くのプレーヤーを獲得できたのです。
国ごとの嗜好性を洞察することは容易ではなく、誰もができることでもありません。ゲームであっても、適切な翻訳およびローカリゼーションを行うことでユーザーを広げることができるのです。
ローカリゼーションの落とし穴
ここまで多言語展開の成功例を示してきましたが、ローカライズで失敗することもあります。例えば、スウェーデンの掃除機メーカーElectroluxが、アメリカ市場に向けて掃除機を販売しようとして作ったキャッチコピーは「Nothing Sucks like an Electrolux」。一見すると「Electroluxの製品よりよく吸い取れる掃除機はありません」ですが、Sucksに「ひどい」という俗語的な意味があったため「Electroluxの製品よりひどいものはない」となってしまいました。これでは誰も買いたいと思いません。
誤訳や認識の違いによる過ちを犯さないように、多くの大手企業は言語に関して専門的な調査・対応ができるローカリゼーション・プロバイダーを使っています。各国の言語に加えて社会的・文化的要素も加味し、その国・文化・言語において最も効果的な翻訳および編集のできる人材を確保しているローカリゼーション・プロバイダーに仕事を依頼することで、問題を回避することができます。
コンテンツの形式および内容がどのようなものであれ、翻訳会社またはローカリゼーション・プロバイダーを慎重に選定し、正確かつ適切な言葉に置き換えた情報またはサービスを提供することで、ビジネスの海外展開を成功させてください。