法務分野で活用されるブロックチェーン技術
ブロックチェーン技術は、さまざまな分野に変革をもたらす存在として注目されており、法に関する分野も例外ではありません。分散型で不変という性質を持つブロックチェーンは、法的プロセスの実施、記録、検証の方法に革命を起こす可能性を秘めています。契約を自動的に実行するスマートコントラクトから、透明で安全性の高い記録管理まで、ブロックチェーンは法務業務の効率性、透明性、信頼性を高めるためのさまざまな可能性をもたらします。
この記事では、ブロックチェーン技術の基礎と、それが法律に関連する業務にどのような影響に与えるのかについてご紹介します。
ブロックチェーン技術で変化する法務手続き
ブロックチェーン技術は、法的事項を記録し解決する分散型かつ安全なシステムであり、プロセスに透明性と不変性をもたらします。Ledger Academyによると、ブロックチェーン技術は、見知らぬ人同士の信頼構築メカニズムとして機能し、仲介者に頼ることなく貴重な資産を追跡することを可能にします。ブロックチェーンは、すべての参加者が見ることができる共有のデジタルノートとして機能し、変更履歴も記録され、検証も可能です。例えばスウェーデンの国土調査庁であるLantmäterietは、大手ブロックチェーン関連企業ChromaWayと協力し、スウェーデンの不動産市場における不動産の登録と譲渡にブロックチェーンを活用する試験的なプロジェクトを成功させています。
ブロックチェーンの種類
パブリック・ブロックチェーン
パブリック・ブロックチェーンは、誰でも参加し取引を行うことができるフリーの分散型台帳です。台帳への無制限のアクセスを可能にし、参加者はそれぞれ台帳のコピーを持ちます。パブリック・ブロックチェーンは、インターネットに接続できる人であれば誰でも利用可能で、最新情報と履歴にアクセスできます。パブリック・ブロックチェーン上の取引は複雑な計算によって検証され、その完全性と不変性が保証されます。パブリック・ブロックチェーンの利用は「信頼性」、「セキュリティ」、「オープン化」という利点があります。ビットコインはパブリック・ブロックチェーンの一例であり、各ビットコインの価値が高まることで、ブロックチェーンネットワークのすべての参加者が公正で倫理的な行動をとるための強い動機付けが生まれます。
プライベート・ブロックチェーン
ブロックチェーンカウンシル(Block Chain Council)によると、プライベート・ブロックチェーンとは、制限されたネットワーク内で運用されるか、単一のIDによって管理されるものです。ピアツーピア接続や分散化という点はパブリック・ブロックチェーンと共通ですが、プライベート・ブロックチェーンは規模が小さく、通常利用者は特定の組織内に限定されます。利点は、より高速な取引やスケーラビリティなどです。プライベート・ブロックチェーンは、サプライチェーン管理、資産保有、社内投票などの用途に適しており、スピードと柔軟性を高めることができます。
ハイブリッド・ブロックチェーン
ハイブリッド・ブロックチェーンは、パブリック・ブロックチェーンとプライベート・ブロックチェーン双方の特徴を備えたもので、パブリックな許可不要のシステムと、プライベートな許可制のシステムを併せたものです。ハイブリッド・ブロックチェーンの利点は、プライバシーを保護しつつ、セキュリティと費用対効果が高いことです。取引や記録は一般に公開されませんが、スマートコントラクトによって付与されたアクセス権により検証が可能となります。セキュリティとオープン化のバランスが特徴で、不動産、小売、高度に規制された市場などにおいて有用です。
コンソーシアム・ブロックチェーン
コンソーシアム・ブロックチェーンは、分散型ネットワーク上で複数の組織が協働するブロックチェーンで、連合型ブロックチェーンとも呼ばれます。プライベート・ブロックチェーンとパブリック・ブロックチェーンの両方の特徴を持ち、さまざまな組織のメンバーが協力して合意方式を制御します。コンソーシアム型ブロックチェーンは、パブリック型ブロックチェーンと比べ、セキュリティ、スケーラビリティ、効率性が強化されたものです。コンソーシアム・ブロックチェーンは、銀行や決済、研究協力、食品追跡などの用途に適しており、複数の主体が取引の検証を制御し、データを安全に共有することができます(Supra Oraclesの研究成果と一致します)。
ブロックチェーンを取り入れることによる法務分野のパラダイムシフト
ブロックチェーン技術の導入は、法律サービスの大幅な進歩につながります。例えば、世界経済フォーラムと複数の法律事務所およびブロックチェーン企業が協力し、スマートな契約のためのプラットフォームを開発し、複雑な契約を簡素化することに成功したという事例もあります。
アクセシビリティの向上も、ブロックチェーン技術が法律関連の分野にもたらす重要なメリットの1つです。取引業務の簡素化、電子署名の実現、法的契約の安全な保存の確保により、関係者全員が利便性を促進します。さらに、ブロックチェーンベースの契約では、利害関係者がアクセスできる共有台帳を作成され透明性が担保されます。
国際的な法律事務所Norton Rose Fulbrightは、ブロックチェーン技術企業と提携することで、ブロックチェーンが法律業界にもたらすさまざまな可能性を積極的に探ってきました。その取り組みの中心は、スマートコントラクト、サプライチェーン管理、法的文書の取り扱いに関連するプロジェクトです。 ブロックチェーンによる法務の革新には以下のようなものがあります。
- 自動化による法務の効率化 -スマートコントラクト: ブロックチェーン技術を活用したスマートコントラクトは、ペーパーワークの削減、仲介者の人員削減、不正行為の防止といった点で、法務プロセスに革命をもたらしています。ブロックチェーンとスマートコントラクトの導入で、清算と決済のプロセスを合理化することもでき、ミスやコスト、決済時間を大幅にカットできます。顕著な例は、2015年にDepository Trust & Clearing Corp.(DTCC)が3億4500万件の取引で1兆5000億ドル以上の有価証券を処理したという驚くべき数字です。Santander Innoventuresは、2022年、ブロックチェーン技術の導入により、インフラコストで年間150億~200億ドルの節約を実現できると予測しています。(Deloitte Insights, June 2016)
- 文書の安全性確保: ブロックチェーン技術は、機密情報を扱う法務の担当者にとって、セキュリティの強化につながります。鉄壁の金庫として機能し、不正なアクセスから文書を保護し、その真正性と完全性を確保します。さらに、ブロックチェーンは文書の検証を合理化し、無駄な時間や費用、潜在的なエラーやごまかしを無くすることができます。他の分野同様、法務部門も、ブロックチェーン技術による情報管理の力を享受できるのです。
- トレーサビリティの向上: 法的取引にブロックチェーンを組み込めば、その分散型で改ざん不可能な性質を活用により透明性とトレーサビリティが向上します。ブロックチェーンは、契約、財産移転、知的財産権など、法的なやり取りを改ざんできない記録として作成します。この革新技術により、不正行為を排除し、文書の真偽に関する疑念を解消し、監査を容易にできます。世界経済フォーラムの2017年の調査報告では、法務における競争条件を平準化し、信頼を醸成し、透明性を高めるブロックチェーンの可能性が強調されています。
- 知的財産権(IP)の管理: ブロックチェーン技術は、知的財産権(IP)の管理と技術移転にも革命をもたらします。発明家の権利を保護しながら、投資家やライセンシーを発明に惹きつけます。技術開発をブロックチェーン上で公開することで、発明者は新規性を維持し、法的証拠を得ることができます。また、ブロックチェーンは分散型IPレジストリとして機能し、ハッシュ化された証明書を保存し、スマートコントラクトを通じてロイヤリティを実現します。登録や所有権移転の遅延をなくし、クリエイターシップや著作権所有に関する問題を解決します。さらに、ブロックチェーンを利用した検知システムは、さまざまな媒体にまたがる侵害防止を簡素化します。
- 法務ソリューションの再定義: ブロックチェーンは、透明で改ざん不可能な記録を残せる性質から、紛争解決の合理化の寄与することが期待されています。安全なコミュニケーションを促進し、調停を自動化し、効率的で公平な解決を可能にうるのです。イーサリアム・ブロックチェーン上に構築された分散型自律組織(DAO)であるKlerosは、様々な業界の第三者による紛争解決システムとして機能しています。2020年11月、Klerosは陪審員として行動する約400人のユーザーの関与のもと、約500件の紛争を解決し、約123,000ドルの仲裁手数料を生み出しました。
ブロックチェーンが法務にもたらすメリット
ブロックチェーン技術は、法律業務に数多くのメリットをもたらします。
- ブロックチェーン技術は、分散型かつ透明性の高いシステムを提供することで、法務部門を含む様々な業界におけるアクセシビリティを向上させます。ブロックチェーンを利用することで、法的プロセスを個人や組織にとってより利用しやすくし、参入障壁を減らして包括性を高めることができます。ブロックチェーンの不変性と透明性を活かすことで、不正や操作のリスクを軽減することができます。
- ブロックチェーンは透明性を促進し、信頼と説明責任を育みます。中央集約型でないブロックチェーンの性質により、すべての取引と変更の履歴がすべての参加者に可視化され、チェックとバランスのシステムが構築されます。この透明性により、参加者は自分の行動に対して責任を持ち、詐欺や非倫理的な行動を抑制するようになります。
- ブロックチェーンの導入により、プロセスの合理化や、ペーパーワークの廃止による時間とコストの大幅な削減が可能になります。さらに、法的契約の自動化を可能にし、効率を高め、ミスも減らせます。
倫理やプライバシーに関する配慮
法律業務にブロックチェーン技術を導入するには、倫理的な懸念に対処し、透明なガバナンス、説明責任、コミュニティ参加の促進などが必須です。GDPRなどのデータ保護規制を遵守するためには、慎重な評価とプライバシー対策が不可欠です。
ブロックチェーンシステム内に消去権や合意の仕組みを作ることは極めて重要です。ブロックチェーンの利点を生かしつつ、機密データを保護するプライバシー保護技術の構築も重要です。ブロックチェーンの倫理に関するユーザー教育や啓発を積極的に進めるべきです。設計段階からプライバシーへの配慮を行い、許可制のブロックチェーンを利用し、オフチェーンストレージや暗号化技術を実装することで、ブロックチェーン・アプリケーションにおけるプライバシー保護は強化されます。
さらに、監査の実施、コンプライアンス監視、法的専門知識の取得などが、ブロックチェーン導入に際したプライバシーとデータの保護に結びつくでしょう。
まとめ
ブロックチェーン技術を導入することで、法務の大幅な効率化が可能になります。スマートコントラクト、透明な記録管理、安全な知的財産の検証など、契約やプロセスにおける効率性、透明性、安全性を向上させることができるのです。またブロックチェーンの導入により、訴訟の合理化、証拠開示プロセスの改善、裁判書類の送達における改ざん防止証明の確保なども可能になるでしょう。さらに、ブロックチェーンの可能性は、財産権、金融取引、紛争解決にも及び、法律業務に新たな可能性をもたらします。
しかし、法律事務所や法務部署がブロックチェーン・ソリューションを採用する際には、倫理やプライバシーに配慮し、データ保護規制を遵守する必要があります。
ブロックチェーン技術が法律業界に与える革命的な影響により、正確な翻訳の必要性がますます高まっています。ブロックチェーンの普及により、言語の壁を越えたグローバル環境が一層広がりました。専門の翻訳会社と提携することで、現地の法制度や表現に則した内容に最適化された翻訳を得ることができます。法務を専門とする翻訳サービスは、複雑な法的概念や専門用語を異なる言語間で正確に伝えるために必要な専門知識と言語能力を提供します。クリムゾン・ジャパンは、翻訳とローカライゼーションの豊富な経験を生かし、ブロックチェーン技術によってグローバル化が加速する法的課題を自信を持って乗り越えるお手伝いをいたします。