和英・英和翻訳で日本語の翻訳が難しいとされる8つの理由

私たちが日々使用している日本語は、多々ある言語の中でも非常に複雑な言語と考えられており、翻訳するのが最も難しい言語の一つとも言われています。現代日本語では3種類の文字体系(漢字、ひらがな、カタカナ)を使い分けている上、他に類似する言語がありません。「てにをは」のようなわずかな違いや言葉の使い方によって文意が変わってしまう日本語の翻訳には正確さと細部にわたる注意が必要です。日本語の翻訳が直面する課題を8つ挙げてみます。

1. 複雑な漢字

日本の文字種のひとつである漢字は、複雑な文字である上に、それ自体が概念を持っているため、理解が難しいものです。主に、名詞、形容詞と動詞の語幹、人名や地名などの固有名詞等に使われ、各文字が音と意味を示しています。中国、日本、韓国など一部のアジア諸国で使われていますが、日本で一般的に使われている漢字は、登用漢字と人名漢字を合わせて約3,000字程度です。数の多さに加えて音読みと訓読みがあることも混乱を招く要素です。

2. 文化的ニュアンス

どんな言語を翻訳するのであれ、正確かつ、正しい文脈で翻訳を行うためには、文化的ニュアンスにも細心の注意を払う必要があります。文化的ニュアンスを忠実に表現しつつ読みやすい日本語にするためには特に気をつけなければなりません。例えば、日本語には文語体の改まった表現や礼儀を示す言葉や表現があり、翻訳にあたっては、これらの言葉も理解しておくことが不可欠です。

3. 一語一句での対応不可な言葉

日本語を英語に訳す和英翻訳で難しいことのひとつに、直接的な対訳にできないということも指摘されます。日本語の単語やフレーズによっては、対応する英語がないのです。このような場合、日本語が意味するところを損なわずに英語として意味の通じる文章にしなければなりません。抽象的な概念を訳出することは、扱う言語独自の課題を翻訳者に突きつけることになるでしょう。

英和翻訳では、名詞の和訳にも気をつける必要があります。ひとつ例を挙げてみます。アメリカ風のメキシコ料理を提供する米大手ファーストフードチェーンの「Taco Bell(タコベル)」が日本語のウェブサイトを作成したとき、商品名の「Cheesy chips(チージーチップス)」が誤って「質の悪いチップス)」と訳されてしまいました。確かにCheesyには「チーズ味の」という他に「つまらないもの、ありふれたもの」「安っぽい」といった俗語で使われる意味もありますが、この商品はチーズを付けて食べるコーンチップスです。捻りすぎた訳で失敗したのでしょう。もうひとつ「Crunchwrap Supreme – Beef(クランチラップスプリーム-ビーフ」は「SupremeCourt Beef(最高裁判所のビーフ)」になってしまいました。Supremeに引きずられたのでしょうか。あまり美味しそうに聞こえません。さらに、原材料情報(Ingredient Sourcing)ですべての原材料およびその原産地を公開しますとの意思を伝えようとした”We’ve got nothing to hide.”は、「私たちは持ってきている物を公開しません(What did we bring here to hide it)」というまったく趣旨に反する表記となってしまいました。食品の安全性を示すはずなのに、ひどい誤訳です。

4. 明確に区別されない単数・複数

もうひとつ名詞に関わる注意は単数形と複数形です。日本語では単数形と複数形が明確に区別されず、英語のように名詞の語尾変化で表されることはありませんので、翻訳者は言葉の文脈から判断しなければなりません。とはいえ、多くの場合、該当する単語が単数を意味しているか、複数を意味しているのかを確かめる方法がなく、翻訳者は頭を悩ませることになります。しかも、代名詞(人称代名詞・指示代名詞)や形容詞とともに使用されても、一匹、一羽、一頭と、数え方が無数にあります。英語の名詞に単数形と複数形が明確に存在し、それによって冠詞や動詞も使い分けているのとは大きな違いです。

5. 不明瞭な代名詞の選択

英語では代名詞の選択が簡単ですが、日本語ではそう簡単にはいきません。文章によっては、参照されている人の性別に関する手がかりがないため、翻訳文書で性別を特定する代名詞を決めることが困難なのです。例えば、日本語の小説の登場人物が一般的な表現で書かれている場合、その人物が男性か女性か判断できない場合、性別を確定する代名詞を選ぶことはできません。一方、英語の人称代名詞は、自然な日本語の訳文にしようとするとほぼ省略されます。英語における人称代名詞が具体的な内容がなく、語と語の関係や文の構造を示す「機能語」であるのに対し、日本語の代名詞はその人物がどのような人なのか、その人物に対して書き手がどのような感情を抱いているかなどを表現する「内容語」であり、文中における役割がかなり違うのです。英和翻訳では「機能」しかない人称代名詞は文脈から推測することが可能だと見なされて省略することが可能ですが、和英翻訳の場合、文脈から推測できなければ補えません。この違いが翻訳をする際のネックとなっています。

6. 主題と動詞の配置

日本語の文法規則やニュアンスは、他の言語に比べると直感的には分かりにくいようです。その理由には、主語と動詞の配置や使い方の違いが挙げられるでしょう。通常の英語の文章では、主語と動詞が文章の先頭にきますが、日本語の文章では動詞は最後にきます。また、日本語の文章の主語は明確にされていないことが多々あり、読者は文脈から主語を推定して文章全体を理解しますが、翻訳する際に「主語なし」は悩ましい問題です。

7. 困難な時制

日本語には、過去と過去以外の2つの時制があります。過去以外は、現在あるいは未来のことを記述するために使われ、過去のみ過去形で記述されます。この時制の曖昧さは、過去・現在・未来という3つの時制を明確に使い分ける必要のある英語に翻訳する際には、混乱を招く原因ともなり得ます。

8. 翻訳者に求められる専門知識

日本語の翻訳に関してはさまざまな課題があるため、よい翻訳文書を作成するためには、専門分野の知識のある翻訳者の存在が不可欠です。翻訳者が、読者と同等レベルの知識を持っていなければ、対象文書が意図した目標を達成できているか理解することはできません。翻訳文書の読者は、翻訳された情報が適正な語句選択の上で書かれたものか分かるでしょう。

日本語の翻訳プロセスにはネイティブ翻訳者が携わることが不可欠です。数々の日本語翻訳の課題を理解した上で、原文に記載された情報を知識に基づき、正確かつ日本語らしい文章に翻訳することが重要なのです。

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