グローバル金融セクターにローカリゼーションが不可欠な理由
サイバー犯罪や金融詐欺が増加する中、業種を問わず、顧客の信頼と信用を得ることは難しい課題です。中でも顧客の資産を扱う金融機関は、他業種以上に信頼度が問われます。グローバルに展開する金融系企業が顧客の信頼を獲得するための最も重要な手段のひとつとして、サービスを提供する顧客に合わせて文書、商品、およびサービスをローカライズすることが挙げられます。
世界中に多数ある同様のサービスを提供する企業の中から顧客が一社を選ぶ決め手は何でしょう?最初に得た情報から商品またはサービスについて理解が得られ、提供者側の企業と効果的なコミュニケーションがとれたなら、無数にある選択肢の中からその商品やサービスを選ぶ可能性が高まります。
金融セクターにおけるローカリゼーションの進め方
金融セクターにおけるローカリゼーションは、金融関連の文書、アプリ、ウェブサイト、ビデオ、ソフトウェアなどあらゆる媒体を対象として、それらの掲載する情報をビジネスを展開する対象地域のニーズと文化的側面に合致しているかを確認します。新規グローバル市場に合わせたローカリゼーションを実現するための手順を以下に記します。
- プロセス開始前に、翻訳者はすべてのコンテンツを分析し、起こりうる問題を早期に発見し、処理する必要があります。内容を把握し、適切な訳文を作成するためにも、金融あるいは経済分野の専門知識を有する翻訳者に作業を依頼するのが望ましいでしょう。
- すべてのグラフィック、画像を確認し、表記や色調に必要な修正を行います。この手順は対象とする顧客にとって好ましいか、文化的に見て不適切なものがまぎれこんでいないかを確認する重要なステップです。
- 書類やオンラインフォームも、顧客が理解しやすいように作り変える必要があります。フォームに記入する情報には金融取引に関係するデータを含む場合が多いため、顧客自身が提供している情報の内容について十分に理解する必要があります。
- ターゲットとなる市場に合わせた支払い方法にするとともに、通貨単位にも注意します。
- 日付、電話番号、住所などの記載が、ターゲット市場または対象地域に適した形式であるかを確認します。
- 数字が正しく記載されているかを確認します。国や通貨によっては数字の(桁の)区切りに用いる「,(カンマ・コンマ)」と「.(ピリオド)」の使い方が異なるので、対象市場に合った表記方法であることを確認します。例えば、日本、米国、英国では小数点は「.(ピリオド)」、桁の区切りには「,(カンマ)」を使いますが、多くのヨーロッパ諸国では小数点にカンマを使用しています。
- 対象市場の通貨で記載する場合には、通貨為替レートが正確であることを確認します。換算レートは政治・経済状況によって大きく変動する可能性があるので、どの時点の換算レートで算出した額かを記載しておくなど注意が必要です。
- 新規開拓する地域の経理処理、および経理・会計処理に関わる法律や税法に関する要件、さらにコンプライアンス規制などをすべて見直し、確実に遵守するようにします。
金融書類や商品に含まれる情報の機密性とプライバシー配慮の必要性から、ローカリゼーションのプロセスには、金融関連に特化した専門知識、品質およびセキュリティが求められます。
金融セクターにおけるローカリゼーションのメリット
金融セクターにおいて提供する情報や情報をローカライズすることで、売上や顧客基盤の拡大が見込まれます。新規顧客の獲得に加え、次のようなメリットが挙げられます。
顧客ごとにカスタマイズしたサービスの提供
サービスをカスタマイズすることで、顧客はよりニーズに合った商品やサービスを享受することができるので、顧客維持につながります。母国語でのメールの送受信やカスタマーサービス、ローカライズされたコンテンツによって、顧客はより快適に、より安心してサービスを利用できるようになります。
顧客の信頼確保
ニーズに合った商品やサービスを自分の母国語で提供してくれる企業への顧客の信頼度は高くなります。銀行口座の開設や投資など、金融サービスを利用する際には、安心感や親しみやすさは不可欠です。さらに、顧客がサービスを気に入れば、他者に勧めてくれる可能性も高くなります。
顧客との関係性を深める
顧客の母言葉でコミュニケーションをとれれば、顧客の関心は高まり、親近感が湧くことでしょう。企業の発信するメッセージに対する関心と理解が深まれば、企業と顧客との親密度が高まります。
ローカリゼーションは金融セクターのさまざまな事業にどう役立つか
ローカリゼーションは、金融業界全体にメリットをもたらすだけでなく、特定の事業にも大きなメリットをもたらします。
- 国際的な金融機関(銀行):国際市場に事業展開している銀行は世界中に顧客を抱えているため、商品のローカライズは不可欠です。顧客が取引明細書、オンラインサービス、その他の情報を含め、銀行のすべての商品とサービスを母国語で問題なく利用できることは大前提であり、顧客が銀行との取引や自分の資産管理を完璧に理解できているという安心感を持つことが、顧客満足度の向上につながります。
- 投資銀行:投資銀行のローカリゼーションは、債券資産運用や株式照会などの調査活動に重点が置かれるのが一般的です。グローバルにサービスを提供する投資銀行では、口座明細書、年次および四半期報告書、決算報告書、未公開株式(プライベートエクイティ)を所有する投資家向けの情報開示資料など多岐にわたる情報のローカライズが必須です。
- 保険会社:国際的な保険会社では多くの財務書類が作成されます。顧客の保険料の支払いや保険金の受け取りの際に、手続関連の翻訳サービスが必要になります。特に、他国の子会社、規制当局、地方自治体などと情報を共有しなければならない場合は、サポート資料や業務文書のローカライズが求められます。
- 会計事務所:グローバル企業は事業を展開する複数の国それぞれで収支報告をまとめ、集約する必要がありますが、子会社ごとの会計処理も必要となります。そうした会計業務を受託した会計事務所は、顧客とともに個々の国や地域の会計処理規制や法的要件を満たすように業務を遂行するにあたって、各種文章のローカライズが必要となります。
- 国際税務アドバイザー:税務アドバイザーは多国籍企業が現地の税法や規制を確実に遵守するにあたり重要な役割を担います。税務書類は現地の言語で提出する必要があるため、委細まで正確な翻訳・ローカライズができる翻訳会社との連携が必須と言えます。
- M&A:M&A(企業の合併・買収)に携わるすべての関係者は、扱われるさまざまな文書を完全に理解できていなければなりません。企業幹部、法律専門家、財務アドバイザー、交渉担当者などの関係者が契約書や関連文書を母国語で読み、内容を理解するためには、正確な翻訳またはローカリゼーションが必要です。
- 金融関連以外のグローバル企業:金融業界と直接的な関わりがなくても、グローバル企業では、契約書、事業報告書、税務書類および年次報告書といった書類が定期的に作成されており、ローカライズを必要としています。
金融翻訳が可能な翻訳会社との連携
金融セクターにおけるローカリゼーションを成功させるために重要な策のひとつは、金融分野の知見を有する翻訳会社と連携することです。高品質な翻訳を提供可能な会社と連携することが、ローカリゼーションの成功につながります。
- 徹底した正確性:翻訳会社や言語サービスプロバイダ(LSP)に業務を依頼すれば、金融セクターにおけるローカリゼーションに不可欠な要件を満たすことができます。翻訳会社やLSPは、十全な精度を貫徹するため、ターゲット言語のネイティブスピーカーでありつつ、特定の金融分野の専門家である翻訳者を選任します。さらに、内容の秘匿性や重要性を鑑みれば、翻訳会社・LSPには、最終成果物に関するさまざまな問題にも対処できる包括的な品質保証プロセスを有することが求められます。
- 機密保持の保証:依頼先を探す際には、その会社のセキュリティ・ポリシーを必ず確認してください。金融情報の特性を踏まえ、ウイルス、個人情報やデータの漏洩・盗難、マルウェア、フィッシング、スパイウェアなどによる攻撃などから、データを守るための多様な対策を講じている翻訳会社・LSPに依頼することが賢明です。
- 着実な目標達成へのプラン:金融セクターのローカリゼーション・プロジェクトは、新規開拓市場にローンチするアプリの準備など、非常に複雑化するものもあります。プロジェクト管理計画と明確なワークフロープロセスを提示できる翻訳会社・LSPと連携すれば、すべての成果物を期限内、また合意した予算範囲内に完成させられます。
- 国により異なる厳しい規制を遵守:金融セクターにおけるローカリゼーションがより複雑になる要因の1つが、財務会計に関する規制や法の遵守です。国によって会計基準や法規制が異なるため、翻訳会社・LSPは各国の規則に精通し、すべての要件を満たすことが不可欠です。
金融セクターの商品やサービスをローカライズする際は、顧客の信頼を獲得することを第一目標にすべきです。これを実現する最善の方法は、企業が顧客の母国語でのコミュニケーションを提供するとともに、その文化を理解していることを顧客に知らせることです。自分の資産を預ける場合、その銀行や企業を確実に信頼できるかが重要です。顧客のニーズに合ったローカリゼーションを確実に提供するためには、金融知識を有する翻訳会社・LSPの力を借りてみてください。