ビジネスのグローバル化と注目される新興市場
グローバル化が進むにつれ、海外でのビジネス展開に伴う翻訳の需要も増加しています。そのような翻訳に携わる可能性に備え、グローバル戦略において2019年に注目されそうな国に目を向けてみます。
ビジネスのグローバル化
グローバリゼーションという言葉自体、すっかりカタカナ使いが定着しつつあります。「国際化」と訳されているものを見かけたこともありますが、国際化が「国際的な規模の拡大」とされるのに対し、グローバリゼーションは国などの枠組みにとらわれない「世界規模での統合」を図ろうとする試みと言われます。
グローバル化を狙う企業にとって地域ごとの購買層、製品への需要、ターゲット国の規制項目などは、ブランド戦略をたてる上で重要な検討要素です。さらに、地域の経済動向および政治情勢などは、ビジネスのやりやすさ(ビジネスを立ち上げるまでにかかる費用や時間、電力供給、クレジットの利用状況など)に大きく影響するので、この点にも注意が必要です。国や地域の枠を超え、製品やブランドの販路を世界に拡大し、多数の国の人の需要に応じたビジネスを提供するにはグローバル戦略が不可欠なのです。
企業のグローバル戦略
スターバックスのグローバル戦略を例に挙げてみます。この世界的に有名な大手コーヒーショップは、2019年時点で63カ国に2万店舗を展開しています。スターバックスは、本来コーヒーを飲む文化の無かった国や地域にもあえて参入する戦略を取りました。1999年、お茶文化の強い中国に1号店を出店した際にはコーヒー以外の飲み物を前面に打ち出し、その後、南アジア地域に出店した際にはブランドのコンセプトを保ちつつも大人数グループでの利用に対応できる座席レイアウトを取り入れるなど、対象国に合わせた戦略をとったのです。
他にも、グローバル戦略で成功したブランドは数え切れません。もちろん、グローバルで成功するのは簡単ではありませんが、さまざまな国や地域がビジネス展開の対象と成り得ます。特に注目なのは、市場の成長が著しい新興国。先進国の年間経済成長率が2-2.5%と伸び悩む中で、新興国は4-5%の伸びを示しています。グローバル化を考えたとき、新興国の存在は大きいのです。
2019年に需要が高くなりそうな新興市場を見てみましょう。
注目の新興市場-アジア
インドネシア:
インドネシアは2019年の国際ビジネスにおいて重要な役割を担うことになると見込まれています。インドネシアでは、特にインフラや交通、病院および医療機関、高価値製品などの需要が高まると予測されている一方で、原材料や一次生産品が豊富にあるこの国は、製造業者にとっても低コストで製品製造を可能にするチャンスとなるかもしれません。政治的に比較的安定している上に、若者の人口が多いので人件費を抑えることも可能です。制度的にも改正が進んでいるほか、認証・公証手続きにかかる費用と時間を削減するための施策などが進んでいます。
ベトナム:
ベトナムは、東南アジアの中でも政治的かつ社会的に安定している国のひとつであり、ビジネスを展開するには適した安全な環境があると言えます。人口は約9500万人。平均年齢が若く、勤勉であることから豊富な労働力が期待できます。ベトナム政府はASEANやWTOといった世界的な業界団体に加盟することに強い関心を示しており、規制・政治・経済の改修を進めているだけでなく、ビジネスを誘致するための環境整備に力を注ぐとともに、さまざまな投資優遇策も設けています。2018年のベトナムの経済成長率は7.1%。日本の外務省領事局政策課が発表した海外進出日系企業実態調査(平成30年要約版)によると、ベトナムに進出している日系企業の数は、1816拠点(2017年10月1日時点)で、国別の順位では6位。同時点で海外に進出している日系企業の総数(拠点数)は過去最多の7万5,531拠点。その内訳を見ると1位が中国(32349拠点)、2位が米国(8606拠点)、3位がインド(4805拠点)、4位がタイ(3,925拠点)、5位がインドネシア(1911拠点)、そして6位がベトナム(1816拠点)の順となっています。
この調査からもアジア各国の成長ぶりが伺えます。巨大な人口を有し、世界経済の成長に大きな影響を与えている中国(人口14億)とインド(同13億)は、人々の生計を支えるビジネスの需要が引き続き高まると見越されています。インドは、IT産業における存在感も強めていますが、それを支えているのは、特定分野の投資に対する政府による税制の優遇処置の実施です。特に「研究開発(R&D=Research And Development )への投資」は、世界中のIT企業にとって大きな魅力となっており、しばらくはこの傾向が続くと見られています。
注目の新興市場-ジョージアとマケドニア
アジア以外はどうでしょう。世界銀行が発表した190カ国・地域を対象にしたビジネス環境調査の2019年版報告書における「ビジネスのしやすい国ランキング(Ranking & Ease of Doing Business Score)」のトップ10を見ると、1位ニュージーランド、2位シンガポール、3位デンマーク、4位 香港(中国)、5位 韓国、6位ジョージア、7位ノルウェー、8位アメリカ、9位イギリス、10位 北マケドニアとなっています。ちなみに日本は39位です。
このトップ10で異色なのは、ジョージアと北マケドニアです。かつてソビエト連邦の構成国で1991年に独立したジョージア(2015年まではグルジアとも呼ばれていた)と、ユーゴスラビア連邦の構成国から同じく1991年に独立した北マケドニア(独立当初の国名はマケドニア共和国)。この2国を見てみます。
ジョージアは、力士の栃ノ心の出身国として耳にしたことがあるかもしれません。農業や畜産業、食品加工業、鉱業を主要産業とする国ですが、近年は観光立国を目指して努力していることもあって、外国人旅行客が増えています。歴代の大統領が汚職撲滅、金融・財政制度改革、市場経済化などの改革を進めてきたことに加え、政府も長期的な経済回復を視野にさまざまな改善を促してきました。2014年には欧州連合(EU)と連合協定を締結し、2018年には中国との間で自由貿易協定(FTA)を発効。現在ではヨーロッパとアジアを結ぶ交通路の要となっています。中国が「一帯一路」政策の下、ジョージアへの投資を積極的に行っていることも鑑みれば、今後も東西交通路の重要拠点として存在感が増すものと思われます。先述の「ビジネスのしやすい国ランキング」には、ジョージアではたった1日、オンライン手続きなら半日で新規事業を立ち上げることが可能と記されており、投資の流入を導くためのビジネス環境の整備にも力を入れていることが見えます。ジョージアの投資環境と経済成長に向けた政策は、国内外の投資家にとって魅力的な投資先と見られており、今後の発展にも注目です。
もうひとつの国、北マケドニアの経済成長率は0.2%(2017年、世銀データ)と伸び悩んではいるものの、政府は、外国投資の促進による経済発展を実現すべく各種取組みを行っています。2019年1月11日に北マケドニア議会で国名を「北マケドニア共和国」と変更する改憲が承認され(日本の外務省における正式変更は国連に変更が受理された2月)、北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)加盟に向けて大きく前進しました。NATOには年内にも正式に加盟する見通しで、これからの成長が期待されます。
このように、アジアや中欧・東欧の国々をはじめとする国々が国際市場に参入すべく改革を実施しており、ビジネスの市場は今後も拡大を続けると予想されます。企業がどこの国にビジネスを展開するのであっても、ウェブサイト、アプリケーション、ブランド構築、パッケージングなどのコミュニケーションツールにおける「ローカリゼーション」「翻訳」という作業は避けて通れません。産業翻訳、あるいはローカリゼーションに携わるのであれば、ビジネス業界の動向やグローバリゼーションの傾向についてもアンテナを張り巡らしておくのが得策ではないでしょうか。