グローバル化はローカル化!?

「完璧な翻訳などありえない」――。

翻訳を試みたことのある人にとっては周知の事実ですが、ある言語で示される内容を他の言語ですべて正確に表現するのは至難の業です。経済、文化、産業、人とあらゆる物事がグローバル化した世界において、情報の共有および拡散のための「翻訳」という言葉の置き換えが不可欠となりました。現代における「翻訳」の意味や役割について検証します。

現代の「翻訳」に求められること

よく「国際化社会」「グローバル化」と称されますが、そもそも「国際化」を何と訳すでしょう?インターナショナリゼーションまたはグローバリゼーションとなることが多いと思いますが、この2つですら、すでに若干のニュアンスの違いが出てきます。インターナショナリゼーション(internationalization)と言えば国家(inter-national)の枠を越えて広がるイメージですが、グローバリゼーション(globalization)では地球規模(global)で広がるイメージになるのではないでしょうか。例えば、人や物の拡散は「インターナショナリゼーション」で、気候変動の影響は「グローバリゼーション」という微妙な使い分けを我々は何気なくやっていますが、カタカナにしただけでも差が生じるような言葉のニュアンスを正確に説明するのは困難です。

これを他の言語で表すとなれば、単語のイメージや使用される状況によっては、受信側は、発信側のねらいと異なる印象を受け取りかねません。自国語では「普通」なことが、他の言語では「普通」ではないかもしれないのです。

このように翻訳には、認知の仕方の違いという落とし穴が隠れています。「国際化」と広い視野の話をしている反面、言葉を届けるためには地域ごとの言語、言い回し、文化的背景など非常に細かい人間的な側面にも配慮する必要があるのです。それが、グローバリゼーション(国際化)を手助けする翻訳作業を「ローカライゼーション(地域化)」と呼ぶゆえんです。

では、グローバル化が加速している現代において、ローカライゼーション=翻訳にはどのような配慮が求められているのでしょうか。

翻訳は言葉の置き換えに留まらない

「翻訳」とは一般的に言えば、言葉から他の言葉への直接的な置き換えです。ただこれだけであれば、コンピューター処理のスピードが格段に進化し、AIも採用されている最近の翻訳ソフトで大部分は対応できてしまいます。

英語やフランス語のように言語自体が比較的シンプルな言語間の翻訳では、それほど問題なく処理できるようになってきているようです。しかし、ロシア語やドイツ語のように複雑な文法の言語ではまだ苦戦していますし、日本語の尊敬語や謙譲語のように状況で変化する言葉への対応には、課題が残っています。ソフトウェアのローカライズのように言語変換プログラムを組むことで機械的に対応できるものもありますが、人に伝える情報については、どれだけ単語データの集積があっても言葉の語形変化(活用)や使い分けなどを理解していないと、意味不明な翻訳となってしまうのです。

そして伝えなければならない情報には、言葉以外の要素も多々含まれています。翻訳を行うにあたって注意すべき要素をあげると、以下のようなものがあります。

• 言語特性
• 日付と時間の書式(年月日の書き方にはかなりの差が見られます)
• 数字(特に小数点表記、世界には小数点の区切りが「,(コンマ)」になる国も)
• 時差(タイムゾーンの違いに加えてサマータイムによる時差も生じます)
• 通貨(省略記号が紛らわしい通貨も)
• 重量などの単位
• 用紙サイズ(意外と通じません)
• 電話番号表記(桁数が異なる場合があります)
• 郵便番号やジップコードの表記
• 電流・電圧
• 文章を書く方向
• キーボードの配列やショートカットキーの違い

これらは例に過ぎず、翻訳する分野、内容、目的によって注意しなければならないことは数多くあります。このような点にすべて配慮し、その上で、辞書通りだけれど訳文として文意が伝わらない部分(ニュアンスや文化的背景に影響される認知の違い)を補足しつつ、情報を正確に伝えなければならないのです。

ビジネスに必要な翻訳:ローカライゼーション

モノやヒトが世界中を動き回る現在、ビジネスの世界でも翻訳(多言語への翻訳)は欠かせません。海外展開をねらう企業は、大量の情報を短時間にさまざまな言語で提供する必要に迫られますが、その時に情報の誤伝達があると大きな損失につながってしまいます。契約書などの重要文書に誤訳があれば、契約は破談。商品説明をするサイトに間違った情報が掲載されたのでは、商品は売れない。ターゲット国で文化的にタブーな表現を使ってしまえば、その国でのビジネス存続は危ぶまれる……。

そんなリスクを乗り越えてグローバル化をめざすという企業を手助けするのが、“面倒な”翻訳を担う ローカライゼーション 会社です。新たな市場で陥りがちな失敗をするよりは、言語に精通するプロフェッショナルを利用することは選択肢の1つに十分なり得ますし、作業を分担すれば、依頼者はビジネス展開そのものに集中できるようにもなります。翻訳する内容について双方で確認しながら作業を進めれば、ターゲット市場に特有の問題があったとしても、事前に対策を講じることが可能です。

ローカライゼーションとは、国際社会において必要とされるようになった言語情報の“人間味ある地域化”なのです。

世界の言語の調査結果を公表している Ethnologue: Languages of the World によれば、世界には7099もの言語があるそうです。人が多種多様な言葉を使って生活し、言葉によって感情が刺激されるものである以上、機械(自動翻訳ソフト)による言葉の置き換えだけでは埋めきれない溝は存在し続けます。「完璧な翻訳」など不可能なのです。とはいえ、人が介入すれば、一言一句違わずに言葉を置き換えるのではなく、的確かつ情報の受け手に配慮した言葉を届けることが可能です。グローバル化が進む中、コミュニケーションの手段とも言われる言語の翻訳およびローカライズが担う役割と責任は重大です。

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