米国保健福祉省の言語アクセス政策

医療における言葉の壁は、何百万もの米国人に影響する重大な問題です。米国保健福祉省の「言語アクセス計画」(Language Access Plan) は、言葉の壁をなくし、英語力に関係なくすべての人が公平に医療を受けられることを目的としています。この包括的な最新の方針は、言語に関する課題に対処する戦略的方法を提供し、健康を公平に促進します。この方針は、それまでの法的な保護を上回るものです。

言語面でのアクセスの欠如と、言語アクセス計画の取り組み

米国の人口の約8.2%、2,500万人以上は、英語が苦手であり、医療において大きな障壁に直面しています。これらの障壁は、患者と医師との意思疎通が難しい、保険への加入が難しい、医師の指示を理解するのが難しい、といったもので、健康状態の悪化につながっています。英語が苦手な人々は、米国保健福祉省が資金を提供するサービスを必要としているにもかかわらず、これらのサービスを利用しにくいことが多く、健康の格差は悪化しています。

公民権法第6編、リハビリテーション法第504条、障碍を持つアメリカ人法第2編、医療費負担適正化法第1557条といった既存の法律は、人種、肌の色、出身国、障碍に基づく差別に対する重要な保護を提供しています。しかし、これらの法律は非常に広範囲であり、英語が苦手な人々の複雑なニーズに対応するには不充分であることが証明されています。また、これらの法律には、現在の米国の医療制度というきわめて複雑なシステムにおいて上記の差別を防ぐための取り組みを行う枠組みも欠けています。米国保健福祉省の言語アクセス計画は、これらの法律の不充分さに対処し、言語アクセスについて、より包括的で積極的な方針を提供するものです。

米国保健福祉省の方針と目的

米国保健福祉省の言語アクセス計画は、英語力に関係なくすべての人が良質な医療を受けられるようにするという同省の目標を明確にしたものです。この計画の目的は、言葉の壁をなくし、健康を公平に促進し、英語が苦手な人々に対する医療の質を高めることです。この計画は、明確な指針と実行可能な方法を提供しています。米国保健福祉省の各部署が具体的なニーズや状況に合わせた独自の言語アクセス計画を策定し実施する際に、この計画が役立ちます。

米国保健福祉省の言語アクセス計画は、4つの主要分野において言語アクセスの改善に力を入れています。

  1. ウェブにある情報・公開情報: ウェブにある情報や公開情報を多言語で利用できるようにする。
  2. 電話によるアクセス: 医療を利用しやすくするため、電話通訳サービスを提供し、電話のヘルプラインを利用できるようにする。
  3. 制度や給付に関する情報: 制度や給付に関する情報を様々な言語で利用できるようにする。また、英語が苦手な人がこれらのサービスを充分に理解し活用できるよう、文書の翻訳依頼を取り扱う仕組みを作る。
  4. 言語サービスのための連邦予算: 言語サービスの提供を支援するための連邦予算を配分し、言語面でのアクセスを保障する取り組みの持続可能性と一貫性を確保する。

米国保健福祉省の言語アクセス計画で示された10の重要事項

米国保健福祉省による言語アクセス計画の基盤には、上記4つの主要分野を取り扱い、本計画が定める要件の概要を示す10の重要事項が含まれています。最も大事なのは、これらの各事項が、本計画が定める要件を達成するために各機関が講じるべき具体的で実行可能な方法を示していることです。これらの重要事項は、2013年の言語アクセス計画から更新されたものであり、現在のニーズと進展が反映されています。以下、これらの重要事項についてご説明します。

  1. 言語に関するニーズと能力の評価: 各機関は、現在の患者や医療利用者たちの言語的・文化的アイデンティティとニーズの評価を行い、自機関の業務がこれらの人々のニーズを満たしているかどうか判断する必要があります。たとえば、米国保健福祉省が資金を提供するインディアン保健サービス (Indian Health Service) は、地域生活支援局 (Administration of Community Living) とは明らかに異なるニーズを持つ集団を担当することになります。本計画は、言語面での支援が必要かどうか、またそのニーズは何かを、各機関が判断するための枠組みを提供します。また、多言語で対応できる職員、通訳者、専門的な翻訳サービスや通訳サービスといった言語アクセスサービスを提供する最善の方法を決定するために、言語支援担当班と少なくとも年に1回は会合を持たなければならないことも定められています。
  2. 通訳・言語支援サービス: 米国保健福祉省の各機関は、適切な言語支援サービス (対面での通訳、電話での通訳、インターネットを介した通訳、補助器具やサービス、バイリンガルの職員など、様々な方法による) を、すべての人に無料で提供する必要があります。第二に、各機関は、この種のサービスが無料で利用できることを人々に知らせる直接の窓口を提供する必要があります。この窓口を介して、人々はこの種のサービスを利用し、職員はこの種のサービスを提供するための適切な研修を受けます。
  3. 文書の翻訳: 各機関は、すべての人に対して、重要文書を各自の第一言語で提供する必要があります。重要文書は、利用しやすく、複数の形態で入手できなくてはいけません。重要文書には、制度に関する情報、同意書、苦情申立書、各制度への申請書、権利の通知、給付がなくなる・減るという通知、受給資格の基準などがあります。また、本計画によると、この種の翻訳は、情報が正確・明瞭に伝わるよう、資格を有する通訳者か契約業者が翻訳する必要があります。
  4. 方針・手続き・実践: すべての機関は、その方針と手続きが、英語が苦手な人々に言語アクセスサービスを効果的に提供しているかどうかを継続的に評価する必要があります。また、各機関は、現在の方針・手続き、人々の現在のニーズ、および英語が苦手な人からの意見を調査する職員を任命し、サービスを受ける人々のニーズを適切に満たしているかどうかを評価する必要があります。さらに、この職員は、特に効果があり、より広範囲で有益と思われる取り組みについて、米国保健福祉省の言語アクセス運営委員会と話し合う必要があります。
  5. 英語が苦手な人への通知: 各機関は、英語が苦手な人に対して、無料の言語支援サービスを提供することを積極的に知らせる必要があります。この点に対応するには、(上記「1. 言語に関するニーズと能力の評価」で述べたように) 当該の集団のニーズの評価を行い、各自の言語アクセス能力を当人に知らせる計画を立てることが各機関に求められます。これには、ポスター、パンフレット、看板、公的に配布される文書、各機関のウェブサイトなどで情報を広めることが含まれます。また、通知の書式は、広く使われている複数の言語で各機関に提供されます。毎年、各機関は、英語が苦手な人への通知に対する財政援助の予算要求書を提出することができます。
  6. 職員の研修: 各機関は、言語支援サービスを提供するために必要な全職員に対して、適切な研修を行う必要があります。職員は、自機関の言語アクセス資源、窓口担当者、通訳を依頼し協力する方法、患者のために翻訳された資料の入手方法、通訳の適切な使用と不適切な使用、および言語面で支援が必要な人の見分け方について教育を受ける必要があります。
  7. 評価と説明責任: アクセス・質・資源・報告: 各機関は、言語アクセスを提供する現在の方法とその有効性の継続的な評価を行う必要があります。また、各機関は、言語アクセス運営委員会に対して、計画の実施と継続に関する進捗状況を報告する必要があります。これにより、本計画の維持に関する各機関の説明責任が確保されます。
  8. 医療・福祉サービスでの提携機関との協議: 各機関は、米国保健福祉省に積極的に働きかけ、人々のニーズを判断するための支援を求め、米国保健福祉省のどの制度や給付が対象者にとって有益かを判断するための支援を求めるべきです。これによって、それまで医療機関が知らなかったような米国保健福祉省の制度を、英語が苦手な人々でも知ることができる道が開けるかもしれません。
  9. コンピューターやインターネットでの意思疎通: 各機関は、コンピューターやインターネットを介して多言語で意思が伝えられることを保証し、また障碍者が利用しやすい形態で情報を提供する必要があります。たとえば、ウェブページ内に翻訳版への見やすいリンクを表示する、会議での手話通訳・字幕・医療通訳サービスの提供、多言語による技術サポートの提供、様々な文化の人々にソーシャルメディアで情報を広める戦略の開発、少なくとも2年ごとに英語が苦手な人々のためのウェブコンテンツ・デジタルコンテンツの現状を評価することなどが必要です。
  10. 米国保健福祉省からの資金の受領者による諸条件の遵守: 米国政府からの資金の受領者は、上記の要件を認識する必要があり、申請書と定期的な審査を通じて、言語アクセスサービスの実施について継続的な評価を受ける必要があります。

米国保健福祉省の計画進捗報告書

米国保健福祉省の計画進捗報告書は、言語アクセス計画の実施における成果と現在進行中の取り組みについて、包括的に概要を述べています。2023年版報告書の要点は下記の通りです。

  • 米国保健福祉省のウェブサイトにおいて多言語の情報が大量に利用できるようになった。
  • 電話通訳サービスを強化し、英語が苦手な人々が遠隔地から医療を受けられるようになった。
  • 言語アクセスに関する取り組みの持続可能性と拡大を支える言語サービスの予算が増えた。
  • 米国保健福祉省の各部門にわたって、文化・言語に関する能力を高める継続的な職員研修の取り組みを行っている。

報告書の全文はこちらからご覧になれます。

米国保健福祉省の言語アクセス計画を策定し実施するには、英語が苦手な人々、コミュニティ団体、および医療機関との協議を含む、広範な関係者の参加が必要でした。この協力により、英語が苦手な人々が直面する現実のニーズや課題に対応した計画が作成されたのです。

まとめ

米国保健福祉省の言語アクセス計画は、英語が苦手な人々に医療への公平なアクセスを保障するための重要な一歩です。この計画の目的は、言葉の壁に対処し健康を公平に促進することで、健康状態を改善し、充分な医療を受けていないコミュニティにおける格差を是正することです。この計画で説明されている包括的かつ最新の方法は、言語アクセスサービスを実施し改善するための継続的な努力と相まって、すべての人にとって利用しやすい医療制度を育てるという米国保健福祉省の目標を明確に示しています。

Leave A Reply

Your email address will not be published.

お気軽にお問い合わせください

toiawase@crimsonjapan.co.jp