中小企業のグローバル化
グローバル化が進むとともにビジネスの競争は激化し、中小企業(SME)も波に揉まれています。新興国の成長は目覚ましく、多国籍でビジネスを展開する上で市場における競争力の維持・強化は欠かせません。しかし、市場調査とマーケティングに対する中小企業のアプローチは、大企業と比較すると弱く、整然さに欠けるように見受けられます。中小企業が新しい市場にビジネスを展開しようとした場合、個人的なネットワークや口コミを頼りにすることも多いようですが、そのような方法は国内市場で有効だったとしても、国外市場で地位を確立するには不十分と言わざるをえません。
グローバル市場でのビジネス展開を行うには、マーケティング戦略とローカライズが必要です。大企業の多くは、国外でも相応の知名度がある上、海外拠点や外国人従業員を有しているので、グローバル市場に備えた体制作りはそれほど困難ではないでしょう。中小企業の中には、大企業の下請けを担うなどの関係を有することから、大企業とともにグローバル化に踏み出す企業もいます。では、大企業との関係の薄い中小企業がグローバル化を進める場合はどうでしょうか。中小企業の抱える問題と欧州での事例を見てみます。
中小企業が抱える問題
中小企業がビジネスのグローバル化を考えるとき、ローカライズ(多言語化)の重要性、デジタル・マーケティング、ブランディングを十分に理解していることが大切です。企業によっては、これらの要素を具体的に検討していないかもしれません。重要性を理解していても具体化するにはコストがかかると敬遠しているかもしれません。しかし、資本や人材などが少ない中小企業でも、グローバル化を図るのであれば初期段階からこれらの要素を検討しておく必要があります。これを怠ると持続的な成長にとって重大な影響を及ぼすことになりかねません。
日本企業が海外進出する理由の一つは、少子高齢化などに伴う人口減少、それにともなう消費減、つまり国内市場の縮小です。一方の国外市場規模は拡大が見込まれています。主にアジア、アフリカでは人口増加にともなう消費増が予測されています。もうひとつの理由は、人件費や製造費のコスト削減を目指すものです。特に製造業では、より安い労働力を求め、かつて「世界の工場」と言われた中国から撤退し、東南アジア諸国など経済発展中の国々に進出する企業も増えています。また、取引先企業が前述の理由で国外進出したのに追随する中小企業もあります。いずれにせよ、メリットとしては販路の拡大やコスト削減があげられ、グローバル化する日本企業の数は増えています。とはいえ、グローバル化には多くの手間とコストがかかるのは事実です。現地のマーケット情報、顧客のニーズ、競合調査、現地視察などを行った上で、現地に最適な戦略を練らなければなりません。
欧州の中小企業のグローバル化に関する調査事例
どの市場を中心としたグローバル化を図るかも重要な検討要素です。日本企業は、製造コスト削減を目指してアジア地域などに進出する(拠点を置く)ことが多いように見受けられますが、欧州の中小企業の多くは、EU諸国に向けたグローバル化を推し進めており、事情が異なるようです。
欧州連合(EU)による欧州の中小企業のグローバル化に関する調査では、中小企業のグローバル化と成長、競争力の強化、長期的な金融安定性との間には、直接的な相関関係があることが示されました。また、情報あるいは資金援助へのより良いアクセスを提供するといった欧州の公的支援制度が、中小企業のグローバル化にとって有用であるにもかかわらず、その存在の認知度は低く、少数の中小企業しか利用していないことも調査報告書では指摘されています。このような公的支援がもっと知られるようになれば、より多くの欧州企業が資金援助を受け、市場展開を進めるようになるでしょう。
報告書は、公的支援のメカニズムの実態を把握し、結果を的確に評価しながら、うまくいっていない市場に支援を投入し、適切な目標や目的を設定する必要があることを指摘しています。さらに、国外市場に参入し、その市場での活動で成果を出すためには、イノベーションが不可欠であると結論付けています。このことは、国内市場における国外企業の競争力が、イノベーションに後押しされたものであることにも裏付けられています。
中小企業がグローバル化する際にすべきこと
公的支援とイノベーション――欧州以外の国からグローバル化を図る際にも確保できることが望ましいものです。公的支援については早々に探ってみるとよいのではないでしょうか。支援メカニズムがあれば、企業の市場展開の段階に応じて利用すべきです。そして、もうひとつ重要なのがローカライズです。現地向けに自社製品/サービスを市場のニーズに合わせてローカライズすること、同時に情報提供においてもローカライズを行うことが必要です。費用がかかることを避けられないかもしれませんが、初期段階からのローカライズは不可欠と考えておくべきです。
中小企業庁が発表している中小企業白書(2019年版)によると、日本経済・社会において「人口減少」「グローバル化」「デジタル化」が大きな影響を及ぼしており、中小企業もグローバル化およびIT技術(IoTやAI)の活用は避けて通れない状況となっています。今や新興国の台頭は国際競争力における脅威となっており、今後も競争が激しくなると予想される反面、新興国における急速な経済成長による需要の拡大は、新たな市場としての魅力を増大させています。
一方で、近年の訪日外国人数の増加および2020年の東京オリンピック開催を考えれば、国内のインバウンド需要の増加も見過ごせません。中小企業白書にも供述されているように、国外展開を検討していない中小企業にとっても、インバウンド需要は事業を拡大させるチャンスです。
国外市場に向けビジネス展開をするとしても、インバウンド需要を狙うとしても、ターゲット市場に対していかに柔軟に適応していくか手腕が問われそうです。そして、いずれの場合でも、ローカライズ(多言語化)はグローバル化における課題のひとつと言えるでしょう。