翻訳だけが仕事じゃない――ランゲージサービス会社に求められるもの

グローバル化した現代社会。そこで成功を収めるためには、情報の多言語展開、つまり「情報のグローバル化」も欠かせません。個人事業者から多国籍企業まで、多種多様な形態のビジネスが展開される中、製品あるいはサービスに関する情報を即時に、かつ正確に広げていかなければ生き残れない時代です。多くの企業が、急速に進むグローバル化に応じて、世界中の顧客に情報を伝達する必要に迫られています。翻訳または通訳業務を提供するランゲージサービスプロバイダーも例外ではありません。

ランゲージサービスは翻訳に留まらない

ランゲージサービスを提供する企業に求められるのは、もはや言葉の置き換え(=翻訳)に留まりません。顧客の情報を言語的・文化的に適切に伝えると共に、「付加価値」を生み出すことで顧客の時間とコスト削減に貢献しなければなりません。単純な逐語訳を大きく上回る質、つまりはインターネット上での検索のされ方を考慮し、SNSで話題になる可能性にも配慮しながら、適切に言葉を選択するとともに、文章の構築にも気を配ることが求められているのです。

言葉(テキスト)だけではありません。色彩、イメージ、シンボルなどを文化や状況に応じて適切に用い、それぞれの国のターゲット層に与える印象を、ふさわしいものにする必要があります。プロバイダーは、顧客がターゲットとする市場の言語・文化・習慣・特性までをも熟知する専門家としてサービスを提供し、顧客の競争力獲得を支えるのです。

翻訳を誤ると……

ランゲージサービスの役割が大きくなる反面、言葉の適切な使用を誤って、顧客の事業に傷をつけてしまう可能性もあります。実際、ビジネス関連の文書においても、翻訳の失敗例が数多く見受けられます。これは大きな問題を引き起こしかねません。ビジネスにおける誤訳は経済的損失だけでなく、企業イメージを損なう恐れすらあるためです。

顕著な失敗例の1つに、ドイツの大手自動車メーカーのアウディ社が2009年5月に打ち出した広告があります。ハイスペック高級車「RS6アバント」の新車プレスリリースにおいて、広告会社がドイツ語の原文にあった車名を「ホワイトパワー(White Power)」と直訳したことに端を発し、大きな騒動に陥りました*1。“White Power”とは白人至上主義を示し、この思想と人種的憎悪のスローガンとして用いられるに留まらず、ネオ・ナチ運動をも意味するものであり、アウディ社のイメージを大きく損なうものとなってしまいました。

国際問題に発展しかねなかった誤訳も存在します。比較的最近の話では、2016年の9月にTPP(環太平洋経済連携協定)関連法案の文書内に、誤訳が多数あったことが報道されました。外務省によれば、誤訳や表記ミスはTPP協定に3か所、付属文書などに15か所の計18か所もあったとのこと。中には「国有企業」が「国内企業」と訳されるなど、まったく意味が異なってしまうものもありました。この内容を国会で長時間かけて審議していたことを考えると、非常に危ない橋を渡っていたことがわかります。

ランゲージプロバイダーを利用するメリット

では、誤訳や不適切な翻訳を防ぐためにはどうしたらよいでしょうか。失敗例から学ぶのはもちろんですが、多言語化を行うにあたり、言語ソリューションサービスを提供するランゲージプロバイダーと関係を構築するのも一案です。ランゲージプロバイダーを利用するメリットを以下に記します。

  1. ウェブサイト、製品情報のプレスリリースなどのマーケティング・宣伝活動において事業内容に応じた専門的な翻訳が提供される。
  2. ターゲット市場に在住するネイティブ翻訳者が翻訳作業に関与することで、発信するメッセージが意図した通りに伝達される。また、マーケティングの一環でキャッチコピーが必要な場合でも、ネイティブ翻訳者が文化的な調査・表現の調整を行うことで、自然なコピーの作成が可能になる。
  3. 翻訳を行う上での翻訳者への指示書および参考資料の準備・作成を行ってくれるため、要望が明確に反映される。
  4. ニーズに応じて最適なプラン(翻訳者やチェッカーの人数のアレンジ、翻訳工程の柔軟な組み立て)を遂行してもらえる。
  5. ほとんどの場合、ファイル形式を変更することなく翻訳を依頼できる。
  6. どの市場をターゲットにするか、どのコンテンツをローカライズするのかなどを、言語戦略コンサルタントに相談できる。
  7. 煩雑な情報の整理や翻訳を一任できることで、企業本来の事業、製品やサービスの開発・宣伝活動の考案に注力することができる。

ビジネスを後押しする翻訳とは

先にあげた失敗例とは反対に、素晴らしい翻訳によって新しい国でのビジネス展開が成功した話や、ターゲット国のニーズを的確につかめた、といった好事例もあります。単に言葉を置き換えるだけでなく、ターゲット市場に則した言葉や言い回しに変換することで、好評を得ることもできるのです。

例えば、世界中で絶大な人気を誇るポケモン。このゲームに登場するキャラクターの中には、それぞれの言語によって異なる名前が付けられているものがいます。プリンという人気キャラクターは英語では「Jigglypuff」(「Giggly」は「くすくす笑う」、「Puff」は「ふわっと柔らかいもの」という意)、カメックスは「Blastoise」(「発射」を表す「Blast」と「亀」を表す「tortoise」を合わせた造語)というように。キャラクターの見た目と、その言葉が持つイメージに合わせた名前にすることで、現地の子供たちにもより親しみやすいものになっています。的確なローカライズがヒットを後押しした例としてあげられるのではないでしょうか。

ランゲージプロバイダーは、名前の変更提案のようなものも含め、ターゲット市場で顧客の商品またはサービスが受け入れられるよう、付加価値の高い翻訳を通してビジネスの成功をサポートします。プロバイダーが擁する翻訳者は、それぞれの言語に精通しているのと同時に、IT・小売・金融サービスなどの専門分野にも熟達しています。この翻訳者の技能が翻訳に要する時間とコストを削減し、ひいてはブランド力の向上にもつながると言えます。刻々と変わる世界市場。ランゲージプロバイダーを活用し、良好な関係を構築することも世界でビジネスを成功させるための有力な選択肢の一つと言えるのではないでしょうか。

[ 脚注 ]
*1
https://www.google.co.jp/amp/s/amp.carscoops.com/2009/04/avus-issues-press-r
elease-on-audi-rs6.html

http://www.deseretnews.com/article/705367406/Downplaying-linguistic-ability-
can-sometimes-be-to-your-advantage-in-business.html?pg=all

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