グローバルビジネスにおける法律文書の翻訳:5つの注意点
社員のビザ取得の支援から、ビジネスを展開する国々での大口契約の取り交わしまで、多国籍企業が法律・法務関連の文書の翻訳を必要とする機会はさまざまです。法律関係の文書は専門的で、厳密な言葉の選択が求められるため、それぞれの言語で文書を作成する際、一つのミスが全体の意味を変えてしまい、文書自体が否定されることにもなりかねません。こうした問題を回避するために法的文書の作成において専門的な翻訳サービスを利用することは、多国籍企業に大きな利益をもたらすことができます。
ここでは、国際的にビジネスを展開する企業が、法律・法務関連の翻訳を行う際に注意すべき点を5つ紹介します。
翻訳の正確性の確保:細部にも注意する
一般的に法律関連の文書には特殊な様式があるため、スペースの使い方などを含むフォーマットや構成が違っただけでも、文書の修正に費用や時間を要したり、文書が無効化される事態を招いたりしかねません。さらに、人名その他の名称など、重要な細部に誤訳があることが原因で裁判沙汰になったりすれば、裁判の長期化によって時間を取られたり、特許出願が却下されたりする恐れもあります。
国際的な法律関係文書の翻訳ミスの例としては、2011年の韓国と欧州連合(EU)間の自由貿易協定(FTA)の協定文書の韓国語版に翻訳ミスがあることが発覚し、韓国国会での批准同意が難航したというものが挙げられます。誤訳の指摘を受けて外交通商部が検読した結果、128か所の誤訳の他、訳漏れや、綴りのミスなど計207か所の誤りが発見されました。通商交渉本部長が謝罪し、誤りの「訂正」をEU側と外交公文の形で合意したものの、その他にも、米韓FTA協定文の韓国語版にも翻訳ミスが見つかったことなどが報道され、相手国と訂正に合意する書簡を交換するといった国際的な対応や国内の翻訳監督システムの改善といった対応に追われました。
翻訳上の誤りは、誤訳だけでなく、文法の誤り、翻訳漏れ、一貫性(整合性)の欠如、固有名詞表記の誤りなど多岐にわたりますが、法律文書においてはこうした細部の「誤り」が致命的な問題を引き起こす可能性があるのです。
正しい意味と概念の伝達
ほとんどの言語において、単語や表現(フレーズ)は複数の意味やニュアンスを持つため、他の言語に一対一の関係で置き換えられるほど単純なものではありません。国際的な法律文書では意味的に正しい単語やフレーズを選ぶことが求められますが、これに加えて全体の概念・ニュアンスまでも正確に伝えなければなりません。正しい意味と概念を伝える文章を作り上げていくことは、非常に難しい作業となります。
また、構文などへの配慮も重要です。例えば、英語の法律文書では、大半の文が能動態で記述されますが、対象言語では受動態で書かれるのが通例となっているような場合、文構造の大幅な改編が必要です。
これらの点を見ただけでも、契約書などの法律文書の翻訳作業を、専門的な翻訳会社あるいは言語サービスプロバイダー(LSP)に依頼せず、社内だけで処理しようとすることには少なからぬリスクが伴います。
文化への配慮
法律文書の作成にあたっては、内容の文法的な正しさや、法律的な概念の正確な伝達に加え、当該国や地域の文化への配慮も担保しなければなりません。その地域の社会や伝統などへの理解が不可欠なのです。文化的に適切な翻訳を確保するためには、対象言語を母国語とする翻訳者と連携して、法律・法務文書の翻訳を担う翻訳サービスを選ぶことが重要です。ネイティブスピーカーの翻訳者でなければ、意味のレベルだけでなく、文化的なニュアンスまで含めて、その国や地域において文化的に受け入れられる単語や表現にまで細心の注意を払った翻訳を行うことは難しいのです。
徹底した品質管理
法律関係の文書の多くは、長く、詳細にわたり記述されている上に、頻繁に改正されるため、品質管理が重要です。必要とする分野の法律・法務に関する専門知識を有し、翻訳する必要のある専門用語や概念を理解している翻訳者と協調して作業を進める必要があるのです。法律・法務の翻訳を専門的に行う会社に依頼する際には、ミスをなくすための校正やクロスチェックといった作業を品質管理に入れ込んでいるかを確認します。
国際的な法律や制度への理解
国によって法制度は異なり、法的要件も様々です。さらに一国の中でも地域によって法的要件に違いがある場合は、一層複雑になります。そのため、同じ内容や効力を持つ契約書でも、国や地域で見た目が大きく異なることがあります。国際法やさまざまな国の法律に精通した専門家を擁する翻訳会社・言語サービスプロバイダーであれば、そのような法的要件を整理し、各国の法規制に従った文書を作成することが可能です。
ビジネスの国際化、多国籍企業の発展に伴い、法律・法務関連の翻訳サービスのニーズはますます高まっています。法律関係の文書を正確に翻訳されることを確実にするには、高い専門性を持つ翻訳会社・言語サービスプロバイダーに依頼することが望ましいと言えるでしょう。