機械翻訳ポストエディットとは―抑えておきたいポイント
海外市場に進出しようとしている企業にとって、良質な翻訳サービスは必要不可欠です。しかし、翻訳サービスと言ってもオンライン翻訳ツールの利用から翻訳会社・言語サービスプロバイダー(LSP)への作業依頼まで数多くの選択肢があります。翻訳が必要な内容にもよりますが、予算および時間の制約が厳しい場合には、比較的安価で時間をかけずに翻訳できる機械翻訳の活用も選択のひとつです。しかし、機械翻訳には不十分な点が残っているので、複雑な内容や、深い意味が込められた文章を人間の翻訳者が翻訳するようなレベルで提供することができません。
それを補足するのが、機械翻訳ポストエディット(MTPE)です。機械翻訳(MT)した文章に人による校正(PE:ポストエディット)を加えることで、「いいとこ取り」することができます。つまり、機械翻訳の効率の良さを活かしつつ、翻訳者による翻訳の良さ(人間味)も加味することができるのです。
機械翻訳とMTPEの特徴を理解した上で、どのようなときにMTPEが必要かを考えてみましょう。
機械翻訳とは
機械翻訳とは、端的に言うと、コンピュータプログラムがある言語から別の言語への置き換え作業を自動で行うものです。膨大な数の言葉を短時間で処理し、ほぼすべての言語においてある程度まともな訳文を作成することが可能です。
機械翻訳は年々進化し、翻訳の精度、処理速度は向上してきました。そこにニューラル機械翻訳が登場し、相互に関連する単語同士をマッピングする技術が追加されたことにより翻訳の正確さが高まっています。
しかし、どんなに技術が進んでも、プログラムは言葉に込められたユーモア、ニュアンス、皮肉や、文章が言外に伝えたい意図などをつかむことはできません。こうした要素が入らずに翻訳された文書は人間味の欠けるものとなり、対象とする読者に対して誤ったメッセージを与えてしまう恐れすらあります。
機械翻訳ポストエディット(MTPE)とは
機械翻訳ポストエディット(MTPE)は、前述のように機械翻訳した訳文を人間(翻訳者)が校正・編集を行うもので、機械翻訳の処理速度を活かしつつ、翻訳の精度を上げようとするものです。まず、翻訳ソフトが文章(コンテンツ)の初期翻訳を作成し、次に翻訳者が訳文の正確さ、流れ、明確さを確認しながら、対象読者に内容が的確に伝わるように編集します。高度に技術的な内容や、特定の口調(トーン)で伝えたい、あるいは文化的要素が鍵となるような文章の場合には、翻訳者による作業を加えることが非常に重要です。翻訳の対象文書によって、どの程度のMTPEが必要になるかも異なってきます。ここでは、2つのタイプを挙げてみます。
- 意味が伝われば十分なライトポストエディット:機械翻訳された翻訳が、読者が正確に理解できるかどうかということに重点を置いた編集を行います。この場合、翻訳者は、内容の読み間違いをしない翻訳になることに留意します。ライトポストエディットは、予算と時間が限られており、原文の意味が伝われば十分なような翻訳には適していますが、品質よりも効率に重点を置いているため、出版物や正式な文書に求められるような翻訳精度が求められる翻訳には適切とは言えません。
- 高い翻訳精度を求めるならヘビーポストエディット:これは、読者がより深く理解できるように、文法、句読点、口調、文化的側面にも踏み込んで編集を行うものです。最終的な訳文(アウトプット)は、最初から人間の翻訳者によって行われたように見えるはずです。ライトポストエディットよりも時間はかかりますが、より正確な翻訳にすることが出来るので、時間をかけるだけの価値はあります。機械翻訳を利用しても、質の高い翻訳にすることが可能です。ポストエディットのレベルは翻訳会社によって異なりますので、問合わせしてご自身の目的に合うプランを選んでください。
機械翻訳とMTPEの長所と短所
機械翻訳だけの場合と、MRPEを付けた場合のどちらにも良い点があるため、どちらにすれば良いのか決めかねる場合があります。それぞれの長所と短所を見てみましょう。
機械翻訳の長所は次のとおりです。
- 手頃な価格:人が翻訳作業をしないので、費用対効果が高い方法と言えます。無料オンラインの機械翻訳もあれば、翻訳会社やLSPが提供する機械翻訳サービスもあるので、選ぶ手段(翻訳ツールやサービス)によって料金は異なります。
- スピード:機械的な処理によって訳文を作成していくので、人間の作業とは比較にならないほど短時間に翻訳することができます。
- 効率:翻訳に要する時間が短いので、人間の翻訳者は、ローカライズ作業も含め、より多くの時間を必要とする複雑な業務に時間を費やし、集中することができます。
逆に、機械翻訳の短所は次のとおりです。
- 感情の欠如:人間の翻訳者ではないため、不自然で人工的に見える訳文となる可能性があります。
- 低品質:元の文章が複雑な場合、機械的な言葉の置き換えだけでは、品質として満足できる文章にならないこともあります。
- 間違ったメッセージング:機械は、記載内容に応じたトーンに訳出することができないため、間違ったメッセージになってしまう可能性もあります。
一方、MTPEの長所は次のとおりです。
- 正確性:MTPEの最も重要なメリットの1つは、機械翻訳だけよりも正確性を高められることです。翻訳者(人)が注意深く文章を確認し、人工知能(AI)の訳文の間違いを見つけて修正します。
- 所要時間の短縮:翻訳を全て人が行った場合には時間がかかります。始めに機械が内容を迅速に処理することで、翻訳者は機械が作成した訳文の込み入った細部の確認に注力することができます。その結果、依頼者にとっては、プロジェクトにかかる全体的な時間を大幅に削減することができます。
- わかりやすさ:ポストエディットにより、文章の流れが良くなるように修正され、対象読者にとってより理解しやすいコンテンツにすることができます。
- 適切な文化的ニュアンス:どんなに洗練された機械でも、文化的な背景を理解したり、その地域の適切な表現に合わせたりはできませんが、専門とする言語や地域の文化的ニュアンスを把握している翻訳者は、そうしたことを踏まえて編集することが可能です。
- 正確な地域情報:都市名、ストリート名、公園名、その土地のランドマークとなっている歴史的建造物なども含めた地域の固有の情報は機械翻訳で間違われやすいので、地域性(地域の情報)に関しては、正確性を担保するために人間による編集が不可欠です。
- 業界用語:多くの業界ではコンテンツに独自の専門用語を使用しています。特殊な用語が違う意味に翻訳されてしまうと言葉の意味が伝わらなくなるばかりか、文章が伝えたい内容を伝えられない可能性もあります。翻訳者がコンテンツを編集することによって、業界固有の専門用語が正しく使われていることを確認できます。
MTPEの短所は次のとおりです。
- 時間がかかる:正確さは保証されますが、人が作業する以上、プロセスには時間を要します。
- 費用:編集者の手が入らない機械翻訳だけの場合よりも人的費用が加算されます。
機械翻訳が適しているもの
長所と短所が把握できたところで、どのような場合に機械翻訳が適しているかをあげてみます。
- チャットの会話、データベースの入力事項、クラウドソーシングなどのよくある質問のようなユーザーが書き込むテキストの翻訳が必要な場合。
- 翻訳の予算が限られている場合。
- 翻訳するコンテンツが大量にある場合。
- 翻訳を短時間で完成される必要がある場合。
- 社内でのやり取りなど、一般的な翻訳で十分な場合。
MTPEが必要な場合
最後に、MTPEを加えた方がよい場合を挙げておきます。
- 正確な翻訳のために、技術的な知識が必要な場合。例として、法律翻訳、医療翻訳、金融翻訳などの高い専門性が求められる翻訳。
- 製品説明、添付文書、Webサイトのコンテンツ、取扱説明書、マーケティング資料など、一般に公開される資料を翻訳する場合。
- 文化的要素のあるコンテンツが含まれている場合。
- グローバル市場全体で会社のブランディングを展開するコンテンツを翻訳するような場合。
機械翻訳とMTPEがどのような性質を持っているかを把握できれば、MTPEがほとんどの翻訳案件にメリットをもたらすことがお分かりでしょう。機械と翻訳者による翻訳作業の良い点を組み合わせることで、妥当な価格で、正確性を備えた訳文を期日までに入手することができるのです。各翻訳の目的に応じて、要件を満たすことができる専門のMTPEサービスを活用してみてください。