機械翻訳とコンピューター支援翻訳ってどう違うの?
「機械翻訳」と「コンピューター支援翻訳」。皆さんは、この違いがお分かりになりますか?どちらも機械が人間の代わりにする翻訳のこと、とお考えになる方は、少なくないのではないでしょうか。実はこれ、誤りなのです。一見すると同義語に見えるこの2つには、大きな違いがあるのです。
■ 機械翻訳とは
まず「機械翻訳」から見ていきましょう。「機械翻訳」とは、人間を介さず、コンピューターによって言語を別の言語に変換する作業であり、自動翻訳と呼ばれることもあります。最近ではスマートフォンにも自動翻訳機能が搭載されており、ずいぶん身近なものになりました。
仕組みは、膨大な単語と訳文のデータベースから、訳出する語句または文章に一番近い訳を探し出して「訳文」として提示するというもの。現在、そのシステムは3つに分類されています。文法のルールなどをもとに、過去の翻訳文を記憶した用例辞書と単語対応を記憶した単語辞書を利用する、ルールベース機械翻訳。単語・構文に基づいた対訳データから出現確率のような統計情報を利用して最も適切なデータを出力する、統計ベース機械翻訳。人間の脳神経細胞の活動をモデル化したニューラルネットワークを採用し、翻訳に必要な情報を段階的に学習しながら訳文を出力する、ニューラル機械翻訳(NMT)。ちなみにGoogle翻訳は、ニューラル機械翻訳です。コンピューター処理能力が向上したのに並行して、NMTのディープラーニング機能が進歩し、翻訳の精度が飛躍的に向上したと話題になりました。
■ コンピューター支援翻訳とは
では次に、「コンピューター支援翻訳」とは一体どんなものでしょうか。これは、人間がコンピューター支援翻訳ツール(通称CATツール)または翻訳支援ソフトと呼ばれる、翻訳作業の効率化を支援するツールを使って言語変換を行うことです。コンピューター支援翻訳ツールを用いれば、あくまで人間が行う翻訳の生産性を上げることができます。
具体的に見ていきましょう。翻訳支援ソフトが効力を発揮するのは、内容が複雑かつ膨大な量の翻訳を行う時です。翻訳支援ソフトには前述の通り、用語データベースや翻訳メモリが搭載されており、文脈に適した訳文を提案してくれるので、参考にすることができます。また、用語がメモリに記録されていれば、訳語や表記の統一が簡単になります。また、原文と訳文を並べて表示しながら翻訳作業ができるため、訳抜けを防ぐこともできます。結果として、翻訳作業のスピードと正確性が格段に上がります。
■ メリットとデメリット
ではここからは、機械翻訳とコンピューター支援翻訳それぞれのメリットとデメリットを見ていきましょう。
機械翻訳を利用するメリットは、何と言っても安く、速いことです。文章を入力するだけで即座に翻訳してくれる上、Google翻訳のように無料かつ手軽に利用できるものもあります。無料の機械翻訳は一度に翻訳できる文章量(文字数)に上限があるため、大量の文字を翻訳したい場合には、有料の翻訳ソフトを購入する必要があります。とはいえ、かかる費用はソフトウェアの購入費用だけですので、比較的安く翻訳できると言えます。
デメリットは、やはり訳文の正確性が低いことでしょう。ニューラル機械翻訳の精度が飛躍的に改善されてきているとは言え、それでも、自然な言い回しに訳出されていないことがあれば、訳抜けや誤訳が見つかることもあります。より自然で正確な訳文にするため、ポストエディターとよばれる翻訳の専門家に修正を依頼することはできますが、一度翻訳された文章を修正するのは難しい場合もあり、結局、原文を一から翻訳するのと同程度の手間と費用がかかってしまう、といったケースも起こり得ます。時間がかからず便利な反面、品質を求める文章の翻訳に適しているとは言いがたいでしょう。
一方、コンピューター支援翻訳のメリットといえば、人間が翻訳を行い、かつ訳語や表記の統一も行うことができるので、読みやすく自然で、質の高い訳文が仕上がる点でしょう。デメリットは、支援ツールを利用するとはいえ人手をかけて翻訳するため、機械翻訳と比較すると費用が高くなることと、ある程度の時間がかかってしまうことです。ただし、この場合は翻訳の最初の段階から翻訳者が関与するため、別途ポストエディットを手配する必要はありません。その代わりに、ネイティブチェッカーやクロスチェッカーによる訳文チェックを作業工程に組み込めば、より完成度の高い翻訳に仕上げることができます。コンピューター支援翻訳のメリットと同時に、翻訳者が介入することのメリットも受けられるので、十分な費用対効果を得ることが可能です。
■ 使い分けが肝心
このように、機械翻訳とコンピューター支援翻訳はまったく異なるものです。そして、双方にメリット・デメリットがあります。おおまかに原文の内容を理解したい、といった場合には機械翻訳を、社外に公表するものなど表現が重視されるものにはコンピューター支援翻訳を利用するなど、翻訳の内容、かけられる時間、求める正確性などによって、それぞれの翻訳の違いを理解した上で、メリットを生かしながら使い分けることが賢い選択と言えそうです。