メンタープログラム – 先達の知恵を活用

メンタープログラムもしくはメンター制度という言葉を耳にされたことはありますか?一般的には、先輩と後輩がペアになってスキル向上や人材育成を図る手段として知られています。

知識や経験豊かな先輩社員(上司とは別)をメンター、後輩社員(新入社員)をメンティーとして、業務上の課題の相談・アドバイスや精神面のケアを行う制度として、近年、企業にも広く浸透しつつあります。

メンターにとっては後輩の指導育成を行うことで管理業務を学ぶチャンスとなり、メンティーにとっては不安や悩みを相談しながら業務に必要なスキルやマインドを学ぶことができるため、組織におけるキャリア育成には効果的と言われています。そしてこのプログラム、個人事業者であることが多い翻訳者・通訳者の間にも広がりつつあるのです。

メンターの起源は古代ギリシャ

メンタープログラムの起源は、古代ギリシャにまでさかのぼります。「メンター」という言葉は、ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』の登場人物「Mentor(メントール)」に由来します。メントールは、主人公オデュッセウスが息子テレマコスの養育を任せ、トロイ遠征ではギリシャ連合軍を勝利に導く助言を行ったとされる老賢人で、ここから「助言者」「教育者」などの意味で使われるようになったそうです。

現代のメンタープログラムは、従来の組織的な管理体制では行き届かなかった精神的なサポートや、自発的な判断力を養うことに重きを置いて行われていますが、では翻訳者・通訳者が自身の仕事を進めるにおいて、これを取り入れるメリットは何でしょうか?

言語業界のメンタープログラム

言語の分野でよく知られるメンタープログラムには、アメリカ翻訳者協会(American Translators Association; ATA)によるプログラムと、翻訳者ネットワークの ProZ.com によるプログラムがあります。

1. アメリカ翻訳者協会

アメリカ翻訳者協会(ATA)のメンタープログラムには、ATAのメンバーなら誰でも参加して経験豊かなメンターの指導を受けることができます。プログラムに申し込むと、登録されたメンターの中から、専門分野やメンティーの目標・興味に合致する人間が選ばれます。メンターとメンティーはまず、プログラム期間(1年間)の目標と、目標達成までのステップを設定します。その後、月に1・2時間程度のコミュニケーションを取りながら、目標の達成度合いを確認、さらに翻訳のスキルを向上させるための積極的な助言や専門知識を得ることができます。ATAの会長は「(メンティーが)学習者としてはっきりと目標を設定して学習を進めていくことが、スキル強化のための基本であり、成功するために必要なことだ」と述べています。自身がメンティーだった経験を生かして活動しているメンターが多いため、実践的かつ説得力のあるメンタープログラムとして機能しているのです。

プログラムへの参加者を毎年募っており、適宜申し込むことが可能です。また、メンティーとして指導を受けることができるのはもちろん、 メンター としてプログラムに参加することもできます。(参考:ATA Mentoring Program Enrollment Open

2. ProZ.com

世界最大の翻訳者ネットワーク ProZ.com には、30万を越える世界中のさまざまな言語および専門分野の翻訳者と翻訳会社が登録しており、翻訳業務に関するニュースや求人情報、Q&Aなどが提供されています。そのProZ.comが提供するメンタープログラムは、登録者を対象に、言語と専門分野に特化したメンタリングを行うプログラムです。2011年以降、160組がプログラムに参加しており、「複雑かつ奥深く、エキサイティング。翻訳者をサポートするための素晴らしい構想。」と評されています。

プログラムで取り扱う題材は、翻訳業界で自身のポジションを確立するためのコツ、マーケティング、ソフトウェアの使い方など多岐にわたります。メンターとメンティーはまず、目標を設定し、 ProZ.com のサポートチームに対し、学んだ内容や自分たちの経験に基づいた提案などを共有します。メンターからは翻訳の校正など、メンティーの実際の仕事に役立つ具体的なフィードバックを得られることが期待できます。

こちらもウェブから参加申し込みをすることが可能です。また、経験を活かして メンター として参加することも可能です。(参考:Submit a new support request

日本にメンタープログラムは広がるか

「翻訳者として独り立ちしたいけど、どうすればよいのかわからない」、「フリーランスになれたとしても、どうやって自分のスキルを向上させればよいのか」――。そんな悩みを抱える翻訳者・通訳者に対し、メンタープログラムは大いに役立つことでしょう。とはいえ、日本の言語業界でこのようなプログラムを取り入れている翻訳会社や団体は、まだまだ少ないように見受けられます。実践・養成コースなど一定のレベルを終了した受講生向けに個別指導を設けている翻訳学校はありますが、翻訳や通訳を志すすべての人が参加できるものとなると、実現にはまだ時間がかかるでしょう。

国内で今できることとしては、英国翻訳通訳協会(Institute of Translation and Interpreting, ITI)による日本語専門ネットワーク「Jネット」(有料ですが、経験の浅い翻訳者がベテラン翻訳者の指導を受けられるメンタリング制度を設置しています)、その他、メンタープログラムとは異なりますが「アメリア」や「日本翻訳者ネットワーク(JTN)」のような会員制翻訳者ネットワークを利用して、ベテラン翻訳者の助言を得るのも一案です。先達の知恵をわかりやすく、マンツーマンでコミュニケーションを取りながら楽しく学ぶ。そうした気質が日本に根付くかは別として、スキルの向上をめざす一手法として、今後も注目すべきプログラムであることは間違いありません。

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