最も「使える言語」を探ってみた
大手商社の伊藤忠商事が、2015年度から中国語人材の育成強化に取り組み、独自基準で認定した「中国語人材」が1000人に到達したことを祝う式典を開催したとニュースになりました。同社CEOは中国語人材を育成することで、中国でのコミュニケーションを円滑にし、中国ビジネスの拡大を狙うと語っています。
2010年に楽天が社内公用語の英語化を宣言したのを皮切りに、多くの企業が英語を社内公用語または半公用語として推進するようになりましたが、ビジネスの世界では英語に加え中国語の需要も増えてきたため、伊藤忠のように中国語の習得を推奨する会社も増えているようです。
面白いのは、このような習得が実益につながる特定の言語、「使える言語」が、古くは中国語、明治維新後はイギリス英語やドイツ語、戦後はアメリカ英語(米語)、と時代とともに変わってきていることです。英語が世界共通語となっている現代では、英語の強さが圧倒的ですが、他の言語はどうでしょう。「使える言語」について考えてみました。
言語の役割と言語の必要性
本来、言語の役割は人と人とのコミュニケーションであり、文化をつなぐためのものです。グローバル化が進んだことにより、人と人、あるいは多国間、多文化間で情報を共有するためのツールとして言語を習得する必要性が増すこととなりました。多くの日本人にとって外国語を学ぶ理由は、その言葉を話す人とコミュニケーションをとりたい、その言葉を使う国に行ってみたい、など強い動機や好奇心に後押しされてのことだったはずです。しかし今では、学校の外国語教育ですら「グローバルな人材育成のため」と大義名分を掲げるように、必要性に迫られている感が強くなっています。外国語の使い方も、この10年で大きく様変わりしてきました。ウェブサイトは、より多くの人に同じ情報を届けるため、母国語に加えて英語、あるいは英語を含む複数の言語で表示されるようになっています。企業は事業を国外に拡張する際、ウェブサイトを多言語化するだけでなく、円滑かつ効果的に事業を展開するべく、社員に外国語の学習を推奨するようになりました。また、世界中の研究者は国を超えて共同研究を行い、結果の論文を英語で公開しています。それぞれの事情に差異はあるものの、使い方が広がるのに伴い、言語の必要性も高まっているのです。
最も話されている言語は?
やはり一番学習する必要性が高い「使える言語」は英語か――と結論に急ぐ前に、世界でどのぐらい英語を使っている人がいるのかを見てみましょう。実は、「最も話されている言語」を見る時、気をつけなければいけない落とし穴があります。特定の言語を話す人の数だけ見ても、母国語話者数だけ見る場合と、公用語あるいは第二言語としてその言語を使用している人の数を含める場合とで、その数は大きく変わってくるのです。世界最大の統計ポータルである「Statista 」によると、2017年に世界で最も話されている言語は中国語(12.84億)、2位がスペイン語(4.37億)、3位が英語(3.72億)となっています。総人口数の多い中国語が1位、中南米のほとんどの国で使用されているスペイン語が2位なのはわかりますが、英語を母国語とする人数の少なさは意外かもしれません。しかし、これは該当言語を母国語とする人の数なので、実際に使用している人の数(母語話者・第二言語話者・言語習得者を含めた数)を2018年にWorldAtrass.comがまとめた別の統計 で見ると、1位が英語(13.9億)、2位が中国語(11.5億)、3位がスペイン語(6.61億)と納得の順位になります。使われている国の数をみても、英語は106か国、中国語は37か国、スペイン語は31か国となっているので、なるほどと思える数字です。
インターネットで最も使われている言語
次に、世界に普及しているインターネットでどの言語が最も使われているかを見比べてみましょう。前述のStatistaの「ウェブサイトで利用されている言語の割合」 によると、1位は英語(54.4%)、2位がロシア語(5.9%)、3位ドイツ語(5.7%)と英語が突出しています。意外にも日本語が4位(5.0%)に入っています。英語の占める割合が圧倒的な一方、話者数でトップの中国語はわずか2.2%とその差は明らかです。同様に、5億人以上の人が母語として使っているヒンディー語、アラビア語またはベンガル語は、3言語を合わせても11.4%にしかなりません。このようにウェブサイトで利用されている言語の多様性の少なさは、情報へのアクセスの障壁となるだけでなく、言語の衰退に拍車をかけると指摘する活動家や科学者もいます。
最も「使える言語」は?
世界がグローバル化するのに伴い、多言語化が広がる中、最も「使える言語」はどの言語なのか?この答を探すのに2016年にWorld Economic Forumが発表した「The most powerful languages in the world 」という指標データが参考になります。これは言語ごとに1) 地理力(Geography)2) 経済力(Economy)3) コミュケーション力(Communication)4) 知識力・メディア力(Knowledge and Media)5) 外交力(Diplomacy)の5つの項目を数値化してランキングしたものです。これによると、最もスコアの高かったのは英語、2位は中国語(標準中国語)、3位はフランス語、4位がスペイン語、5位がアラビア語、6位がロシア語、7位がドイツ語、8位が日本語、9位がポルトガル語、10位がヒンディー語となっていました。ヒンディー語の方言をまとめてヒンディー語に含めて数えた場合、8位となり後半の順位が入れ替わると注釈が付いていたものの、上位の順位は不動のようです。ここでも予想以上に日本語が健闘していますが、日本語のネックは、苦労して習得しても日本以外で使える機会がほとんどないというのが他の言語とは異なる点でしょうか。
2050年の言語勢力図は?
もうひとつ面白いことに、上と同じ5つの項目で2050年 の「使える言語」ランキングが出ていたので、これも見てみました。結果は、1位が英語、2位が中国語(標準中国語)、3位がスペイン語、4位がフランス語、5位がアラビア語、6位がロシア語、7位がドイツ語、8位がポルトガル語、9位がヒンディー語、10位が日本語となっています。若干の入れ替わりはあるものの、大きくは変わってはいません。日本語はコミュニケーション力以外のスコアが下がった結果、順位を下げています。
とはいえ、ほとんど日本でしか使えない日本語が「使える言語」トップ10に入っているだけでも喜ぶべきかもしれません。その一方で、トップに輝く英語を話せるようになれば、現在の世界人口76億のうちの約14億、約20%の人と話ができると考えるとすごいと思いませんか。