スタバの成功の裏にあるもの――日本でビジネスを成功させるために

あまり自覚されることはありませんが、日本人は世界でも稀に見る「ハイスペック嗜好民族」です。企業が国外市場でビジネスを成功させるには、製品やマーケティングスタイルをその国の市場に適合させる必要がありますが、日本市場に進出しようとする外国企業は、細やかな「気配り」を想像以上に要求されることに気づくのではないでしょうか。「こうしてほしい」とはっきり要求されず、時に「口に出さない要求への理解」を求められることも…..。外国企業が日本で成功するためのハードルは、低くないのです。

日本人の要求は「高い」

ブランド名だけで無条件に売れる製品がありますが、そのブランドが日本市場で認知され普及するに至るまでには、相応の努力が隠されています。モノも情報も氾濫する現在、きちんとした価値観を持つブランドでなければ、日本人の購買意欲をそそらない傾向があります。外国勢が日本市場に参入する際、自社の従来のビジネスモデルやブランドを活用すれば日本でも十分成功できると思い込むことがあるようですが、これは失敗のもとかもしれません。重箱の隅をつつくような細部へのこだわりと完璧さを求める日本人の嗜好、価値観を知ることが重要です。

そんな日本人の細部への要求は、身近なものにも見て取れます。ごく一部を紹介します。

・説明書は絶対
日本人は製品を購入する際、詳細を丁寧に記述した説明書をほしがり、実際にそれをきちんと読む傾向があります。当然、内容には「完璧」な説明とわかりやすさを求めます。「そんなに読まない」という人も、ちゃんと保管している場合が多いのでは?

・パンフレット大好き
説明書同様に、会社や事業内容を説明した紙のパンフレットが大好きです。ビジネスにおける基礎的な信頼を獲得するための鍵として、詳細にわたるパンフレット類は欠かせません。しかも、ビジュアル(美)を重視します。展示会などで、出展企業のパンフレットを集めて重そうに持っている方、少なくないですよね。

日本市場で成功したスターバックス

このようにハードルの高い市場ですが、多くの外資系企業が日本市場に参入してきています。アメリカのシアトルで生まれたスターバックスコーヒーは、成功を収めた代表例と言えます。1996年に日本1号店をオープンしてから21年を経て、47都道府県すべてに1,260店舗を展開(2015年の鳥取県への出店で全国制覇、店舗数は2017年6月時点)しています。今や世界的なコーヒーチェーンですが、日本においては日本ならではの文化を取り込み、顧客の心をしっかりつかんでいます。

例えば“SAKURA”シリーズ。これは春の日本の伝統である雛祭りのイメージや、時には桜の花そのものをあしらう和菓子にインスパイアされた商品です。スターバックスのプレスリリースによれば「日本人の美しい感性をリスペクトした商品がラインアップ!」「さくらに対する日本文化を尊重する」と書かれていますが、これがカップの中のコーヒーにさえ「美」や「文化」を求める日本人の心をくすぐってならないようです。しかも「日本限定」ビバレッジという、日本人が大好きなツボまで抑えたマーケティング戦略で大成功しているのです。

決して安くはないスターバックスが、従来の喫茶店やコーヒーショップを押しのけて日本でここまで成功・拡大できたのには、文化的価値観への配慮も含めた企業戦略があるのです。

広告活動にも配慮

日本市場向けのマーケティング戦略を工夫している企業は、他にも数多く存在しています。例えば、日本でも大人気のアップル社。彼らは、アメリカ流の広告活動は日本市場にふさわしくないと、実際にアプローチの仕方を変更しています。Macのプロモーションに着目してみましょう。米国ではMacと他社のPCをきわどく挑発的に比較したり、アメリカ人が好きなジョーク満載のもの(参考例:’Get a Mac’キャンペーン)だったりしますが、日本では「自分らしくMacを使って、楽しい週末を。他社PCは専ら仕事用で-」というコンセプトを打ち出し、Macを楽しくてカッコイイものと位置づけることで日本人の感性に訴えました。社会性に配慮した成功例です。

他にも、日本で放送される外国企業のテレビCMで、日本市場を意識した内容に作り変えられているものが多々あります。外国に旅行した際に見比べてみると、同じ製品でも違いがあって面白いかもしれません。

日本語の翻訳に求められること

ここまで、外国企業が日本市場に進出する際に求められるものを見てきましたが、ここからは肝心のコンテンツ、つまりテキスト情報には何が求められるのかを見直してみます。

一般的に日本語への翻訳は、多言語に比べて高価格になりがちです。3種類の文字(ひらがな、カタカナ、漢字)や立場による表現(尊敬語、謙譲語)を使い分ける日本語の特性もありますが、同時に日本人の質へのこだわりも影響しています。翻訳後に校正を何度も行うため、結果としてコストが上昇することが多いのです。

高品質は絶対条件。そのためコストが上がり、コストが高いだけに納品物への要求がさらに高まる-というループが存在しているのです。日本市場および顧客に満足してもらえる翻訳に仕上げるためには、翻訳者が早い段階で発注者側の要求を把握・理解することが重要です。また、日本語ならびに文化的価値観なども理解している日本在住の翻訳者を確保するのも有益です。

翻訳者にはただ翻訳技術面で完璧であるのみならず、日本の顧客の心に訴えかけるような質を確保することが求められます。例えば “we can’t do that” という単純な文を訳すにあたっても、「それはできません」とは間違っても表現できません。直接的な物言いは日本人にはぶっきらぼうに聞こえ、反感を覚える人も少なくないでしょう。「実現するには○○日を要します」「検討しましたが、時期尚早という判断に至りました」といった、相手への配慮を感じさせる文章が、この国の文化にはふさわしいと言えます。企業(発注者)は市場、顧客に合わせたマーケティング戦略を練る必要があり、同時に翻訳者は、企業のマーケティング戦略や意図に合う日本語の表現に訳すことが必要なのです。

オリンピック誘致の際に「 おもてなし 」を前面に打ち出した日本は、市場に進出してくる外国企業に対しても、類似する細心の気配り・心配りを求めています。来る2020年に向け、どんなサービスや製品が、日本語とハイスペック嗜好のハードルを乗り越えて乗り込んでくるか。コーヒーを飲みながら、想像してみるのも楽しいかもしれません。

[ 参考情報 ]
Taming the Giant: How to Succeed in Japan
https://www.ulatus.com/translation-blog/how-to-succeed-in-japan/
Six Interesting Notes about Japanese Translation
https://www.ulatus.com/translation-blog/six-interesting-notes-japanese-translation/

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