医薬品・医療機器の輸出・販売:効果的な翻訳による承認取得

<本記事は、Naheed Ali博士によって執筆され、エナゴアカデミーで翻訳、部分補足したものです。>

医薬品や医療機器を他国で販売するための承認を取得することは、多くの理由から非常に重要です。自国で安全性と有効性が認められた製品が他国に輸出・販売できるようになれば、製薬会社や医療機器メーカーは販路を拡大することができます。市場にとっても、さまざまな企業が参入することによって活性化され、価格が抑えられることで、より多くの人が質の高い医療を受けられるようになります。しかし、承認取得までの道のりは決して平坦なものではありません。

医薬品・医療機器の規制プロセス

医薬品・医療機器の規制プロセスは、複雑かつ厳格な制度の下で管理されており、国によって大きく異なります。どの国からであれ、医薬品や医療機器を輸出する企業は、その製品の安全性を証明し、対象国で販売する承認を取得する必要があります。

医薬品・医療機器を輸出・販売するために必要なこと

米国から医薬品や医療機器を輸出しようとする場合、まず米国食品医薬品局(FDA)に製品を提出し、国際市場に輸出するために、製品の規制または販売状況に関する情報を記載した輸出証明書をFDAに作成してもらう必要があります。その後、メーカーは対象国における承認申請を専門とするコンサルタントなどの協力を得て、その国の所轄官庁やその他の関係者との関係を構築し、準拠すべき規制要件や基準についてアドバイスを受けた上で、承認申請を行います。

日本の医薬品や医療機器などを米国で販売したい場合には、FDAの認証を取得する必要があります。製品によって規制や申請方法が異なるので、米国に輸出・販売したい製品がどのFDA規制の対象にあたるのか、必要な届出や申請書類を事前に確認しておく必要があります。

それぞれの国にFDAのような医薬品・医療機器、あるいは食品や化粧品などの安全性を検査する行政機関があるので、製品を輸出・販売する際には、認証を取得することが必須です。この認証取得のプロセスで重要なことのひとつが、すべての関連書類を対象国の言語に翻訳することです。申請書に記載する情報を、対象国の規制当局に正確に理解してもらい、正当に評価してもらう必要があるため、翻訳の質は非常に重要です。また、対象国で治験を行う場合には、被験者が治験に参加するリスクとベネフィットを理解できるよう、臨床試験プロトコル(CTP)および同意書も翻訳しなければなりません。

各国の規制プロセス

医薬品や医療機器を販売するための規制プロセスは国によって異なります。ほとんどの国では、国内での製品の販売および使用において、その製品の有効性および安全性を評価し、認可する規制当局が設けられています。当局は、製薬会社・メーカーからの申請書を審査し、製品がその用途に対して安全かつ有効であることを確認するために独自の検査を実施します。当局の承認を得て初めて、その国での販売・使用が可能となります。

例えば、欧州連合(EU)では、欧州医薬品庁(EMA)がEU加盟国すべてで使用される医薬品や医療機器の評価・承認を担当しています。EMAは一元化された承認プロセスを採用しているため、製薬会社・メーカーはEU加盟国で別々の承認を申請する必要がなく、EMAに申請すればよいのです。また、カナダでも承認申請先は、各州や準州ではなく、カナダ 連邦政府で公衆衛生 に関する規制を司る省庁であるHealth Canada (カナダ保健省)となっています。

このように、医薬品・医療機器関連の許認可の申請先や法規制が国や地域ごとに異なる上、規制内容や関連法案などが変更になることもあるため、申請先および関連情報を確認しておくことが必要不可欠です。

規制の最新動向と課題

同様に、規制のプロセス自体も変わることがあります。製品の開発が進むにつれ、規制プロセスも変わっていくことがあり、そのことがメーカーにとって障壁となることもあります。

規制調和

新しい治療法や技術をいち早く市場に投入し、同時に安全性と有効性を確保することへのプレッシャーが高まったことを受け、規制の調和と効率化が図られました。このような理由から、1990年に医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use, ICH)が創設されました。

ICHが作成した、品質、安全性、有効性、学際的な医薬品規制に関するガイドラインは、多くの国で認められています。しかし、東南アジア諸国連合(ASEAN)のように、各国の規制当局の体制やプロセス、当局と外部関係者との関係、リスクとベネフィット対するそれぞれの国の基準値などの違いが埋まらないことから、異なる規制を設けている国々もあります。

グローバル化の中での透明性

医薬品サプライチェーンのグローバル化に伴い、サプライヤー、メーカー、スポンサー、マーケティングの複雑なネットワークが出現しましたが、これにより規制の不備や貿易摩擦、企業や個人の利益優先などが生まれやすい状況になりました。

そのような状況に加え、規制プロセスにおける患者の関与や意見の大切さ、新薬や医療機器の社会的・倫理的影響が指摘されるようになった現在では、規制プロセスにおける透明性と国民の関与がより重視されるようになっています。

国境を越えたハイレベルなコミュニケーション

他国で医薬品や医療機器の販売承認を得る上で最も重要な要素のひとつが、効果的なコミュニケーションです。質の高い翻訳とバックトランスレーション(逆翻訳)によって、すべての情報・資料を正確に現地の言葉にすることが、規制当局から正当な評価を得て、認証を取得するための鍵なのです。例えば、ブラジルでの医薬品・医療機器の規格・基準および認証の管理を行うブラジル国家衛生監督庁(Agência Nacional de Vigilância Sanitária, ANVISA)への提出物はすべてブラジルの公用語であるポルトガル語で書かれている必要があります。申請文書や関連文書を提出先に応じた言語に正確に翻訳することが非常に重要です。

さらに、他言語での情報量に差がある場合もあるので注意が必要です。ANVISAのウェブサイトのポルトガル語のページには、輸入製品の認証・流通のプロセスに関する詳細な説明がありますが、英語のページには、ポルトガル語のページに含まれるすべての関連データが掲載されていません。つまりメーカーは、参入しようとする国や地域によって、申請書類を作成する以前に、現地の規制や臨床試験、医薬品安全性監視(ファーマコビジランス, PV)のプロセスについて把握するための専門的な翻訳者が必要となるわけです。

日本では、厚生労働省所管の独立行政法人である医薬品医療機器総合機構(Pmda)が、医薬品・医療機器・再生医療等製品に関する承認審査を行っていますが、Pmdaへの提出書類も、すべて日本語で書かれていなければなりません。Pmdaは外国メーカーの日本市場参入を促進するため、申請前相談、臨床試験相談、申請手続き相談など、さまざまな相談に応じていますが、これらの相談は日本語で行われるため、他国のメーカー側が規制に関する特定の言語要件やニュアンスに対する助言を得るためには、通訳者や翻訳者の介入が必要となってきます。こうした助言を活かすことによって、メーカーは効果的なプレゼンテーションを行うことが可能となるのです。

新しい市場に参入する際の認証を獲得するためには、申請のプロセスだけでなく、準備段階でも質の良い通訳・翻訳の助けが不可欠であると言えるでしょう。
また、先述したように規制プロセスや関連法案が変更されることもあるので、最新の情報を入手することも重要です。

例えば、日本の化粧品は中国でも人気ですが、日本の化粧品メーカーが中国で化粧品を販売しようとした場合、中国国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration, NMPA、旧CFDA)より認証および薬事許可を取得しなければなりません。申請は、データを含む専門的な検査資料や技術資料、その翻訳文書の提出など多岐にわたります。成分チェックひとつとっても、日本では許可されている成分が中国では使用禁止であったり、効能の評価が異なったりすることもあるので、NMPAが発表する最新版の禁止成分一覧等の規定に則って判断する必要があります。国によっては頻繁に規定改正・法改正が行われることもあるので、事前確認は欠かせません。

さらに、対象国で臨床試験を行う場合には、医薬品メーカー、現地の治験責任医師、研究スタッフ、そしてとりわけ被験者との円滑なコミュニケーションが重要です。的確な翻訳を行うことで、現地の規制や文化的規範に準拠した試験の実施が可能になります。治験参加者の意思決定を可能にするインフォームドコンセントや、試験期間の継続的な情報提供など、翻訳が大きな役割を果たす場面は少なくありません。また、臨床試験プロトコル(CTP)や被験者向けの資料が正しく翻訳されているかを検証するための、バックトランスレーション(逆翻訳)も臨床試験においては大切です。

グローバル展開に向けた質の高いローカライズ

医薬品・医療機器を他国に輸出・販売する際の認証取得、さらに対象国でのビジネス展開において言語の壁を越えることは最初のステップです。そのためには、高品質な翻訳やローカライズが欠かせません。医薬品や医療機器に関する専門知識を有する翻訳会社・言語ザービスプロバイダに作業を依頼することも一案です。

クリムゾンインタラクティブは、承認申請書類や医療機器の翻訳に精通した専門チームによるサービスを提供しています。また、治験のコミュニケーションの正確性を確保するためのバックトランスレーション(逆翻訳)サービスや、製品のマーケティングに役立つマーケティング翻訳も提供していますので、お役立てください。

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