翻訳サービスが抱えるセキュリティリスクとは
あらゆる情報がインターネット上でやり取りされる現代、不正アクセスやウイルスによる個人情報・顧客情報の漏洩や、コンテンツの不正改ざんなどを含めたサイバー攻撃は後を絶ちません。大手通信教育会社、政府関連機関、金融機関などからの個人情報流出事件が報道されたほか、最近では、安全と言われていた Wi-Fi でも暗号鍵が読み取られる脆弱性が見つかり、問題となりました。
インターネットを利用する以上、セキュリティの問題は切り離せませんが、企業も個人も関係なく危険にさらされているのが現実です。翻訳サービスと翻訳者もインターネットを介してお客様の依頼を受け、作業を進行させる以上、セキュリティリスクとは無縁でいられません。
翻訳会社には重要情報がたくさん
翻訳をはじめとする言語関連サービスを提供する企業にとって、お客様の情報、つまり顧客情報はもちろん大切なものですが、翻訳業界ならではの重要情報の取り扱いについても、十分注意する必要があります。それは、翻訳対象のファイルに書かれているあらゆる情報です。最新の研究、開発中の医薬品、新製品の説明書、会社のプレスリリース、法律文書など、秘匿性の高い情報が外部に漏れることは許されません。お客様の新製品の情報が外部に漏れて競合他社の手に渡ってしまうようなことが起きたら、事業展開に影響が出ます。開発中の新薬の情報が漏れて特許申請されてしまえば、長年の研究が水泡に帰してしまいます。
顧客の業種は多種多様で依頼内容も多岐にわたりますが、どんな情報であれ重要な情報であることに変わりはありません。顧客からの信頼のもとで重要な情報を預かり、作業していることを常に意識しておく必要があります。
そこら中に転がるリスク
インターネットの普及は世界中の言語を世界中で翻訳することを可能にしましたが、反面、セキュリティリスクが増大したのは事実です。多くの 翻訳会社 は社内でプロジェクトの管理や編集などを行いますが、一方で相当な人数の外部事業者(フリーランスなどの登録翻訳者)を抱えています。登録翻訳者は国内外問わず点在しており、依頼言語や内容に応じて選ばれますが、その際、顧客ファイルにアクセスする必要が生じます。が、そのアクセス方法や利用ソフトは多種多様です。複数名の翻訳者がいろいろな国からさまざまなネットワークを経由してサーバーまたはファイルにアクセスすることだけでも、インターネットセキュリティのリスクを負っていることになります。
さらに、ファイルを共有するためにログインIDやパスワードを共有したり、セキュリティレベルを確認することなく大容量ファイル預かりサービスを使ってファイルを転送したり、ファイルサイズが小さいからとメール添付でファイルの送受信を行ったり、テキスト文を検索エンジンにテキストコピーして検索にかけたりと、どれも普通にやってしまいそうなことですが、これらも大きなリスクです。実際、ネット上の翻訳サービスに入力した文章がそのまま公開されてしまうという問題が、数年前に発生しました。これは、翻訳結果がサーバーに保存されていたことで、意図しない情報漏洩につながってしまったというケースでした。サービスを提供する側からの情報提供が不足していたため、顧客がサービスを発注する際に「サーバーへの文書保存に同意しない」という選択肢があったことを知らなかったのです。
翻訳サービスがなすべきセキュリティ対策とは?
このような問題を防ぐためにも、翻訳サービスを提供する 翻訳会社 がすべきことは、顧客に対してセキュリティポリシーについても十分に説明しておくことです。その上で NDA(秘密保持契約)の締結を求められたり、セキュリティに対する具体的な要求があれば、できる限り対応するべきでしょう。問い合わせ窓口や連絡先を明確にしておくことも、信頼関係を築くためには大切です。
さらに、このような運用上の注意に加え、技術的な注意も必要です。翻訳会社によっては翻訳メモリや特定のソフトを利用して翻訳を行います。翻訳メモリを導入している場合には、元原稿と翻訳結果の両方をセットで共有データベースに蓄積させますが、この際、蓄積先(一般的には社内サーバー)に保存したファイルのやり取りやファイル保存には、十分な安全を確保しておく必要があります。
また、もう1つ重要なことは、作業に関わる人員の指導・教育です。プロジェクトに従事する社員および登録翻訳者すべてが、自分たちがアクセスしているファイルや情報の秘匿性がどれほど高いかを理解し、慎重に取り扱う必要があります。個人PCへの不正アクセスをきっかけに、ハッカーやウイルスにネットワークへの侵入を許してしまうようなことにもなりかねない昨今、インターネットセキュリティの基礎教育を行い、リスク管理の認識レベルを上げることにより、プロセス全体のセキュリティを強化することができるのです。
翻訳者ができるセキュリティ対策とは?
インターネットが普及し始め、翻訳ファイルをメールで添付納品していたころ、翻訳者の心配事はOS(オペレーティング・システム)やソフトの互換性、添付ファイルの文字化けやサイズなど、活用に関するものが中心でした。それから10数年、急速に進んだ技術革新により、最大の心配事はセキュリティ(安全性)に変わってきました。翻訳に携わる人間として、基本的なセキュリティ対策はできているでしょうか。以下をチェックしてみましょう。
- ファイルにパスワードをかけていますか。
- 覚えられないパスワードをPC付近など安易な場所に書き留めたり、保存したりしていませんか。
- 一般に公開している情報から推測可能なパスワードを使っていませんか。
- 同一パスワードを使い回していませんか。
- パスワードは十分に長く複雑なものになっていますか。
- パスワードの入力を他者に見られていませんか。
IT技術の進歩で利便性が向上したはずが、何にでもパスワードが要求されて不便極まりないという意見はもっともですが、 翻訳会社 がこれらを徹底しないかぎり、ビジネスを共にする相手からの信頼を勝ち得ることはできないと言っても過言ではありません。翻訳や校正の技能が高くてもセキュリティがおざなりでは、仕事のチャンスを逃すことになってしまうのです。安全を確保してくれる、信頼できる翻訳者を指名して依頼する企業も出てきています。セキュリティ対策は、重要な情報を取り扱う人間としての責務なのです。