翻訳の質の数値化は可能か?~比較ポイント解説~

翻訳を依頼する際、翻訳の質を数値化して横並び比較できたらわかりやすいのにと思ったことはないでしょうか。一見、便利そうですが、本当に可能なのでしょうか。以前にも取り上げたこの話題ですが、何が数値化できて、何が数値化できないのか、再度整理してみます。

数値化できること

「単純な話、納品された訳文の中で間違っている箇所をカウントすれば、質の数値化になるのでは?」と考える方は少なくないかもしれません。間違いの少ない訳文=質の高い訳文である、と。もちろん、間違える頻度には程度の差がありますが、すべてをただカウントしたのでは質の数値化とはなりません。頻度と合わせて、間違いのレベル(重大度)も考慮する必要があります。例えば、

高: 完全に意味を取り違えている誤訳で、誤訳によって読み手の文章の理解を著しく妨げ、ひいては発注者が損害を被るリスクが高いもの
中: 発注者の評判を損ねる、もしくは読者が理解しづらいと感じる可能性があるもの
低: 間違ってはいるものの、「高」や「中」に分類されるほどの影響はないもの(スペルミスなど)

といった具合です。間違いレベルが高いもののほうが、翻訳の質が低くなるわけです。レベルに応じて「高」の場合は「10」、「中」の場合は「5」、「低」の場合は「1」というように点数の重みづけをし、訳文に含まれる間違いに点数を付け、すべてを合計すれば、訳文の「ダメ度」を点数化することができます。もちろん、文章が長ければ長いほど、間違いが起きる頻度は高くなりますから、訳文全体の単語数を分母として間違いの点数の割合を出せば、ボリュームの異なる訳文でも公平に比較できるようになります。

つまり、訳文の間違いについては数値化による比較が可能と言えるでしょう。

数値化できないこと

次に数値化できないことを見てみます。注意すべきは、「ダメ度」の数値が同じ訳文=同じ品質、と言えないということです。例えば、複数の翻訳会社を比較するために、共通の原稿の翻訳を依頼したとしましょう。間違いの数とレベルに順じたスコアを見てみると同等だったとしても、内容を見てみると、A社は同じ単語で軽微な翻訳ミスを繰り返し、B社は一か所のみ、重大な誤訳をしていた……。スコアは同じであるものの、両社の翻訳の質が同じだと判断できるかは、賛否が分かれるところでしょう。もう一つ、別の例を紹介します。仕上がった訳文を比較してみると、A社は比喩の多い読みごたえのある文章で、B社はいたって平易でわかりやすい文章だった……。この場合はどうでしょうか。こうなるともはや、発注者の好みによって判断されるとしか言いようがありません。

もちろん誤訳は許されませんが、許容される「間違い」レベルは、大まかに内容をつかみたい文書であれば大目に見ることができるでしょうし、場合によって異なります。原文の内容や訳文の使用方法(目的)、対象となる読者によって、考慮すべき要素は変わってきます。判断基準そのものが確定していない要素については、数値化することができません。

このように見ていくと、翻訳の質を数値化することは難しいようですが、押さえておくべきポイントはあります。

文法のミス・スペルミス/誤記

訳文における文法のミスやスペルミス/誤記は、翻訳の質を測る上で有意義な指標になるでしょう。こうしたミスは訳文の理解に重大な影響を与えるものではない場合が多く、数値化できたとしても目立つことはありません。しかし、これらのミスはチェックをすれば簡単に発見し、修正できる初歩的なミスです。よって、このようなミスが頻出する訳文は、やはり品質が低いと見なすべきでしょう。

用語の使い方

単語の意味や専門用語の使い方についての事前の確認も、質を左右します。特殊な単語の使い方や専門用語は、発注者にあらかじめ用語集を用意してもらえれば問題になることはありません。この一手間の有無で、翻訳の質が大きく変わるのです。ミスを減らし、最終的な訳文の質を比較する上で、用語の事前確認とそれらの実際の使われ方も、チェックポイントの一つです。

結局、「翻訳の質」のすべてを数値化して評価することはできないと言えそうです。とはいえ、数値化できない部分も含めて評価されるのが翻訳者。「質のよい」翻訳者となるには、数値化できる部分とできない部分の両方を押さえて依頼者の期待に応えること――に尽きるのではないでしょうか。

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