下手な翻訳で失われるもの

近年急速に拡大するオンラインビジネス。国外に展開をする場合、当然、翻訳の必要が生じますが、実はスペルミスや誤訳、不適切な文章表現によって多くのお金やビジネスチャンスが失われてしまうのです……。今回は、下手な翻訳で失われるものについて考えてみます。

人は瞬間的に判断している

一般的に、初対面の人の印象は3~5秒で決まってしまうと言われています。これは、アメリカの心理学者が提唱した「メラビアンの法則」という概念ですが、人は初対面の際、55%を視覚情報(見た目や表情など)から、38%を聴覚情報(声の質や口調など)から、残り7%を言語情報(言葉の意味や話の内容など)から認識しているそうです。

では、ウェブサイトという視覚言語情報を初めて見た場合、サイト閲覧者は1つのサイトの内容をどれぐらいで認識・判断しているのでしょうか?一説には、サイト閲覧者が1つのサイトを注視する時間は6秒とも言われていますが、大体10~20秒以内にはそのページの内容に興味を持てるかどうかを判断しているとの分析もあります。いずれにしても、あまり長い時間ではありません。もしサイトの印象が悪ければ、あるいは不正確な情報が書かれていれば、この瞬間的とも言える短い秒数で顧客を失ってしまうこともあるのです。まず、閲覧者を惹きつけて、サイトに留まらせることが第一歩です。

メッセージを伝えるコンテンツと翻訳する意味

ウェブサイトが魅力的で顧客の目を捉えることができれば、次の課題はメッセージを的確かつ明快に伝えることです。コンテンツがわかりやすく、焦点が明確になっていないと、閲覧者はすぐに他のサイトに移ってしまいます。繰り返しになりますが、人が1つのページを判断する時間は、予想以上に短いのです。

メッセージを伝えるためには、ページが閲覧者にとって気軽に読める言語であることも重要です。ウェブ閲覧者の72%が母国語の表示を選び、54%の顧客が価格より自分たちの言語で書かれていることが購入の決め手になっているとの分析もあります。ということは、翻訳がウェブサイトの印象や顧客の購買意欲を左右してしまうということです。Economist Intelligence Unitの報告によると、572名の企業幹部へのインタビュー調査で半数近くが誤訳および「翻訳の結果、意味不明になった」コンテンツが自社の国際ビジネス取引を滞らせてしまう、との認識を示しました。 翻訳 することによって意味が不明になる、あるいは閲覧者に不正確なメッセージを与えてしまうようでは本末転倒です。

では、ビジネスを滞らせるもの、不明瞭な翻訳や誤訳によって企業が実際に失うものとは何でしょうか。

下手な翻訳で失われるもの

1:お金

英国を拠点とするオンライン起業家、Charles Duncombe氏は、オンラインでのスペルミスに起因する売上損失を分析しました。BBCによると、同氏は tightsplease.co.uk なるサイトへの来訪者1名あたりの売上を解析した結果、1つの誤りが訂正されることで、その売上が2倍にまで増えることを発見しました。この研究結果をネット上の小売業界全体にまで広げて、「コンバージョンファネル」(閲覧者が ”Awareness” 認知から ”Consideration” 検討を経て ”Conversion” 購入に至るプロセス)を念頭に置き、サイト閲覧者が1つのサイトを注意して見るのが6秒間であることを考え合わせると、オンライン上ではたった1個の誤りで、莫大な経済損失が生じる可能性があることを意味しています。

さまざまなオンライン事業を展開するJust Say Please Groupを率いるDuncombe氏は、99%が記載された言葉で行われるオンラインビジネスでは、良質なコミュニケーションこそ重要であると指摘しています。視覚言語情報に依存しているからこそ、言葉の誤りや不自然さがある文章では十分なメッセージが伝えられず、閲覧者による購入あるいはビジネスチャンスの獲得に結びつけることができず、結果として経済的な損失につながってしまうのです。

2:評判(社会的な影響)

誤訳は企業あるいは情報掲載者の評判に悪影響を与えたり、思いもよらぬ問題の原因になることすらあります。

タイのテレビ局 Thai Television Channel 7 がラオ語を誤訳してしまい、ラオス側のコメンテーターの感情をひどく害し、歴史的な2国間の対立関係を刺激するに至ってしまったことがありました。(例えば、「産室」を「モンスーン室」に、「赤信号」を「権力の灯」に、「青信号」を「自由の灯」に、「列車」を「動く家々の列」に、「ティッシュペーパー」を「生理用ナプキン」に誤訳。生理用ナプキンに至っては「止血用お守り」とされる始末)この誤訳問題は政府間レベルで取り上げられ、バンコク駐在のラオス大使がタイの Channel 7 に対し「テレビ局はもっときちんと翻訳できたはずです。タイにはラオ語の専門家が多数いるのに、このような事態になったことは到底承服できかねます」とプロ意識を問いただすに至りました。誤訳は、国家間問題を巻き起こすほど恐いものなのです。

3:命

誤訳が命に関わると言うと「大げさな」と思うかもしれません。しかし、薬剤ラベルの誤訳は患者の命に関わりますし、機械の操作マニュアルの誤訳や不適切な指示は、その機械の操業者の死傷事故につながりかねません。適切な専門知識なしに翻訳を行うことで、金銭では償えない過失を招く恐れもあるのです。

ウェブに記載された情報に依存する割合が大きいオンラインビジネスでは、言葉のミスが金銭やビジネスチャンスの喪失、それ以上の甚大な影響をもたらす原因となり得ます。国際的な論争に発展することや、人の安全に関わる重大な事態を引き起こす危険性も捨て切れません。

このようなリスクへの最善の対処とは何か-という問いに対する回答は、企業あるいは翻訳者など立場によって異なりますが、大切なことは、表記された言葉の持つ力と、誤訳や不適切な表現がもたらす弊害をしっかりと認識しておくことではないでしょうか。まさに「ペンは剣よりも強し」なのです。

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